「本場の味を立川で届けたい」——そう語るのは、バナナ食堂の店主・佐藤さん。
2009年に創業し、16年間にわたって立川で愛され続けているバナナ食堂。もともとはバーを経営していた佐藤さんですが、偶然手に取った一冊のタイ料理本をきっかけに料理への興味を持ち始めました。やがて本場タイでの衝撃的な体験が、佐藤さんの人生を大きく動かすことになります。
バーの一角でタイ料理を提供しながら試行錯誤を重ね、ついにはタイ料理専門店「バナナ食堂」をオープン。単なる食事処ではなく、タイの屋台のような開放的な空間で、料理とお酒をゆったりと楽しめる場所を目指してきました。その結果、16年もの間、地元の人々をはじめ多くのファンに愛される存在となっています。
今回は、店主の佐藤さんにインタビュー。タイ料理との出会い、現地での学び、そして「バナナ食堂」に込めた想いについて、お話を伺いました。
バーからタイ料理へ:運命の出会い
ケージー:よろしくお願いします!今日は色々とお話を伺えるのを楽しみにしていました。
佐藤さん:こちらこそ、よろしくお願いします!
ケージー:さっそくですが、お店を始める前のことを伺いたいんですが、最初はバーをやられていたんですよね?
佐藤さん:そうですね。最初は立川の南口で小さなバーをやっていました。
ケージー:バーをやられてたんですね!そこからタイ料理に興味を持たれたのは、どういうきっかけだったんですか?
佐藤さん:きっかけのひとつは、本屋でたまたまタイ料理の本を手に取ったことですね。当時はレシピをネットで探すなんてできなかった時代で、本が唯一の情報源でした。
ケージー:なるほど。タイ料理の本って、当時は珍しかったんじゃないですか?
佐藤さん:そうなんですよ。韓国料理のレシピ本はよく見かけたんですけど、タイ料理の本は少なかったですね。だからこそ、興味を引かれたのかもしれません。
ケージー:そこからバーを続けながら、タイ料理を少しずつ取り入れていった感じなんですか?
佐藤さん:そうですね。「バーのメニューの一部としてタイ料理を試しに作ってみる」みたいな感じでした。でも、レシピ本には切り方とか詳しい調理法が載っていなくて、見よう見まねで作っていました。
ケージー:なるほど。実際に作ってみた中で、一番苦戦した料理は何でした?
佐藤さん:ソムタム(青パパイヤのサラダ)ですね。
ケージー:ソムタムなんですね!確かに技術がいりますよね!
佐藤さん:レシピには材料は載っているけど、切り方とかクロック(石臼)での混ぜ方とか、詳しくは書かれていなくて。だから最初は千切りにしてボウルで混ぜたり、ココナッツシュガーが手に入らなくて普通の砂糖で代用したりして…。でも、なかなか本場の味にはならなくて(笑)
ケージー:材料があっても、調理のプロセスが分からないと、なかなか本場の味には近づけないですよね。
佐藤さん:そうなんですよ。だから試行錯誤の連続でしたね。でも、そうやって作っているうちに、もっと本格的に学びたいと思うようになったんです。
初めてのタイ旅行と衝撃の体験
ケージー:そこからタイ料理を専門にやっていこうと思った決定的なきっかけはあったんですか?
佐藤さん:実は、もうひとつ大きなきっかけがあって。バーを続ける中で、仕事のストレスもあって「ちょっと海外に行ってみたいな」と思ったんですよ。
ケージー:なるほど。それで実際に海外へ?
佐藤さん:はい。当時の高校の同級生が「バンコクに住んでいるから遊びにおいでよ」って誘ってくれて。それで思い切ってタイに行ってみました。
ケージー:すごい!それが初めてのタイだったんですね。
佐藤さん:そうなんです。向こうに着いたら、友人が現地の駐在員の方々を集めて食事に連れて行ってくれて、初めて食べたのがタイの水炊き風の鍋料理(タイスキ)でした。
ケージー:タイスキ! それはインパクトありますね。
佐藤さん:そうなんですよ。しかも、行ったのがMKとかのチェーン店じゃなくて、ローカルな路地裏の超ディープな店で。出てくる料理も、もう見たことのないものばかりで、衝撃を受けましたね。
ケージー:それはハマりますよね。実際に本場で食べると、味も雰囲気も全然違いますもんね。
佐藤さん:そうなんです。次々に出てくる料理がどれも美味しくて、完全に魅了されました。「これはもっと深く知りたい!」って気持ちがどんどん大きくなっていきました。
タイ料理専門店へのシフトチェンジ
ケージー:タイから帰国されて、その後すぐに「タイ料理をやろう」となったんですか?
佐藤さん:無意識のうちに「タイ料理をやりたい」って気持ちは芽生えていました。でも、それが決定的になったのは、やっぱり実際にタイの空気を感じたことが大きかったです。
ケージー:分かります! 旅をすると、その国の雰囲気とか、文化の違いとか、全てが刺激的ですもんね。
佐藤さん:タイって日本と違って、タイにいると日常の中でも偶然の出会いや予想外の出来事があって、それがすごく魅力的なんです。
ケージー:そういう異文化の体験が、自分の中にどんどん積み重なっていったわけですね。
佐藤さん:はい。そして帰国してから、「自分の店で本格的にタイ料理を出してみよう」って思うようになったんです。
ケージー:そこから、本格的にお店のスタイルを変えていったんですね!
佐藤さん:そうですね。最初はタイ料理を「ちょっと出す」程度だったんですけど、次第にタイ料理の割合が増えていって、気づけばタイ料理店にシフトしていきました。
ケージー:そういった経緯があったんですね。それだけタイ料理にハマるほど、実際に現地での経験が大きかったんですね。そこから最初は他の場所でタイ料理をやろうと考えられてたんですか?
佐藤さん:そうですね。最初は都内で探していて、三軒茶屋に良さそうな物件を見つけたんですが、諸々条件が合わなくて断念いたしました。
ケージー:三茶で物件を探してたの知りませんでした・・!
佐藤さん:そうなんですよ。で、結局立川に戻ってきたんです。最初にバーをやっていた場所の近くに、ちょうど良いテナントが空いていたんです。
ケージー:それはまさに運命的ですね! でも、そこって元々事務所だったんですよね?
佐藤さん:そうです。普通の法人のオフィスとして使われていた場所だったので、飲食店には向いてなかったんですが、改装OKということで、思い切ってチャレンジしました。
ケージー:なるほど! でも、東南アジアの屋台みたいな開放的な雰囲気がすごく感じられますよね。
佐藤さん:そうなんです! もともと東南アジアの食堂みたいなオープンな雰囲気を作りたくて、曇りガラスだった窓を全部透明にして、店内の様子が見えるようにしました。
ケージー:確かに、当時の日本ではそういう開放的な店舗って少なかったですよね?
佐藤さん:そうですね。今でこそ増えてきましたけど、当時はできるだけ隠すみたいなスタイルが主流でしたね。
ケージー:それをあえて開放的にしたのは、やっぱり現地の影響が大きいんですか?
佐藤さん:はい。やっぱり、東南アジアの屋台って、みんなフラッと立ち寄れる雰囲気があるじゃないですか? それを立川で再現したかったんです。
バナナ食堂の人気メニュー
ケージー:バナナ食堂さんで食べたガパオやグリーンカレーがめちゃめちゃ美味しかったのですが、お店をオープンされてから人気のメニューだったんですか?
佐藤さん:そうですね。最初はいろんなメニューを試してみたんですけど、やっぱりタイ料理の知名度が高いもの(ガパオやグリーンカレーなど)が人気になりました。
ケージー:確かに、ガパオライスとかグリーンカレーとかは、もうタイ料理の代名詞ですよね。
佐藤さん:そうなんです。本当はもっといろんな美味しい料理があるんですけど、知名度がないと、なかなか注文してもらえなくて。
ケージー:めっちゃわかります! エスニック料理って、名前だけ見ても味が想像できないと、なかなか手を出しにくいですよね。
佐藤さん:そうそう。例えばサイクロークイサーン(タイのソーセージ)って言われても、ピンとこない人が多いんですよ。でも、タイ風ソーセージって書くと「ああ、ソーセージなのね」ってなる。
ケージー:言い方一つで、印象が変わりますもんね。
佐藤さん:そうなんです。最近はそんなに冒険はしてなくて、定番のメニューをしっかり美味しく出すことに集中してますね。
ケージー:僕もガパオめっちゃ好きですけど、食べやすいし、日本人にもタイ人にも愛される絶妙なラインの味だと思います。
佐藤さん:ありがとうございます! そういうバランス感覚は、ずっと意識してますね。
ケージー:でも、やっぱりタイの屋台とかで食べるガパオって、めっちゃ辛いのもありますよね(笑)
佐藤さん:ありますね! タイで辛くしないでって頼んでも、日本人の感覚だと十分辛いっていう…
ケージー:あれ、もう完全に味覚が違いますよね。向こうの人に「甘めにして」って言ったら、めっちゃ甘くなったりするし(笑)
お酒とタイ料理の新しい楽しみ方
ケージー:バナナ食堂さんは立川のタイ料理シーンを支えてきた存在だと思うのですが、最近立川周辺でエスニック料理は増えているんですか?
佐藤さん:そうですね。最初はタイ料理店自体が少なかったんですけど、今は少しずつ増えてきてますね。
ケージー:最近は店舗が増えてるんですね!これから店舗を拡大していくようなお考えはなかったのですか?
佐藤さん:そうですね。僕自身は、どちらかというと料理を作ることに集中したいタイプなので、多店舗展開とかはあまり考えてないんです。
ケージー:そうなんですね。確かにバナナ食堂は立川にあるからこそ「立川に来たらこの味が食べられる」っていうブランドが確立されてますよね。
佐藤さん:そう言ってもらえると嬉しいです。やっぱり、「立川に行ったらバナナ食堂!」って思ってもらえる店でありたいですね。
ケージー:本当にファンに愛されるお店だからこそですよね。ちなみに、今後の展望って何かありますか?
佐藤さん:そうですね。これからは「お酒とタイ料理のペアリング」をもっと打ち出していきたいですね。
ケージー:おお! 確かに、タイ料理ってめっちゃお酒と合いますもんね。
佐藤さん:そうなんですよ。ガパオとかグリーンカレーもいいんですけど、どちらかというと「まずはソムタムやヤム(タイのサラダ系)をつまみにお酒を飲んで…」っていう楽しみ方をもっと広めたいなと。
ケージー:めっちゃいいですね! でも、確かに日本だとタイ料理ってランチのイメージが強くて、夜は同じメニューを食べるっていう感じになっちゃってますよね。
佐藤さん:そうなんです。でも、タイでは屋台で適当にいろいろ注文して、飲みながらダラダラ食べるのが普通ですよね?屋台も多いですが、実は食堂が中心で、ローカルの食堂やレストランでビールを飲みながら色々な料理をシェアするのが一般的です。そんなスタイルをイメージして、バナナ食堂という名前にしました。
ケージー:なるほど!だからバナナ食堂という店名なんですね。本場タイでは、ディナータイムこそいろんなお酒とタイ料理を楽しみながら過ごすのが醍醐味ですもんね!
佐藤さん:そうそう(笑)でも、日本だとディナータイムにそういう楽しみ方をしてる人はまだ少ないんですよね。
ケージー:確かに、まだまだ可能性がありそうですね。特にワインとかカクテルとか、ビール以外のお酒とのペアリングも面白そうですね!
佐藤さん:そうなんですよ。タイ料理って、実はワインとかスピリッツ系とも相性が良いんですよね。でも、まだまだそこが認知されてないんですよね。
ケージー:めっちゃ面白いですね! ちょっと僕もタイ料理×ワイン、試してみたくなってきました。
バナナ食堂のこれからと想い
ケージー:最後に、バナナ食堂に来てくれるお客さんに向けて、何かメッセージをお願いします!
佐藤さん:そうですね。やっぱり、タイ料理は炭水化物だけじゃなくて、いろんな味の組み合わせを楽しんでほしいなって思ってます。
ケージー:確かに、タイ料理って酸味・辛味・甘味のバランスが絶妙ですよね。パクチー好きな人だと、やっぱりヤム(タイ風サラダ)と合わせるとめちゃくちゃ美味しいですし。
佐藤さん:そうなんですよ。人によってはグリーンカレーにパクチーを入れちゃう人もいますからね!
ケージー:それぞれの好みですよね! でも、やっぱりタイ料理って、お酒との相性がめちゃくちゃ良いからこそ、いろんな発見があるというか。そこが面白いですよね。
佐藤さん:そうですね。「タイ料理って辛いから苦手…」っていう人も、実はちゃんと自分に合うメニューがあるんですよね。例えば、あんまり辛くない料理を知ってもらうことで、一気に「タイ料理って美味しいじゃん!」ってなることもありますし。
ケージー:それ、めっちゃわかります! 無理に「これがタイ料理だから食べろ!」って押し付けると、逆に敬遠されちゃいますもんね。
佐藤さん:そうなんですよ。そうじゃなくて、「お酒と一緒に楽しめるよ」とか、「こんな食べ方もあるよ」っていう提案をしていきたいですね。
ケージー:めちゃめちゃ素敵ですね!! 今日は本当に興味深い話ばかりでした。ありがとうございました!