立川の地で本格シンガポール料理を提供する「シンガポールホーカーズ 立川」
オーナーの杉原さんは、フレンチの世界からエスニック料理に魅了され、シンガポール料理の魅力を広めるべく独立を果たしました。しかし、立川という土地でシンガポール料理を根付かせるのは決して簡単ではなかったと語ります。
本記事では、杉原さんに料理人としてのキャリアの歩み、シンガポールホーカーズ 立川の開業までの経緯、シンガポール料理の魅力、そして今後の展望についてお話を伺いました。立川で9年続く名店の秘密、そして日本のエスニックシーンへの思いについてお話ししていただきました。
料理の道とエスニック料理との出会い
ケージー: 杉原さんはもともとフレンチを学ばれていたんですよね?料理の道に進んだきっかけを教えてください。
杉原さん: そうですね。もともと「飲食店をやりたい」という思いがあって、料理ができたら店を持てるだろうと思い、高校卒業後に調理師学校へ進みました。実家のある富山では回転寿司でアルバイトをしたり、多国籍料理の居酒屋で働いたりしていたので、エスニック料理には高校生のころから興味があったんです。
ケージー: 富山で多国籍料理を出す居酒屋って、かなり珍しいですよね。
杉原さん: そうですね。当時はまだフォーや生春巻き、パッタイなんかが一般的ではなかったので、お店の料理を通して新しい味に出会うのが楽しかったです。そこから「いろんな国の料理を知りたい」と思うようになって、東京に出て調理師学校に進学しました。
ケージー: それで、フレンチの道へ進んだと。
杉原さん: はい。調理師学校ではフレンチ、和食、中華と幅広く学んだのですが、料理の基礎をしっかり身につけたいと思い、卒業後はフランス料理店に就職しました。厨房ではパティシエの仕事も経験しながら、料理の技術を磨いていましたね。
ケージー: そこからどうしてエスニック料理に興味を持たれたんですか?
杉原さん: 実は、まかないでエスニック料理を作ることが多くて(笑)。フレンチの技術を活かしながら、スパイスやハーブを使った料理を試してみたら、スタッフにすごく喜ばれたんです。それがきっかけで、「自分の得意な料理はこっちかもしれない」 と思い始めました。
ケージー: まかないが転機になったんですね。
杉原さん: はい。フレンチはもちろん好きでしたが、もっと自由に料理を楽しめるエスニックのほうが自分には合っていると感じたんです。それで、エスニック系の飲食店へ転職することを決めました。
シンガポール料理との出会いと研修時代
ケージー: フレンチからエスニックへ転向されて、最初に働いたのがバリ料理のお店だったんですよね?
杉原さん: そうです。新宿にあった「バリラックス」 というお店に入りました。そこではインドネシア・バリ料理を中心に扱っていて、現地のスパイスや調理法を学ぶことができました。エスニック料理を本格的に仕事にするのは初めてでしたが、以前から好きだったこともあって、すぐにのめり込みましたね。
ケージー: そこから、さらにエスニック料理を深めていくんですね?
杉原さん: はい。もっとコアなエスニック料理を学びたいと思っていたところ、知人から「シンガポール料理を専門にしている面白い店があるよ」 と教えてもらったんです。それが「海南鶏飯食堂」 でした。
ケージー: なるほど、そこがシンガポール料理との出会いだったんですね!
杉原さん: そうなんです。実際に食べに行ってみたら、日本ではあまり馴染みのない料理がたくさんあって、すごく興味を持ちました。すぐに働きたいと思い、何度か連絡してようやく採用してもらえたんです。
ケージー: そこではどんな経験をされたんですか?
杉原さん: まずは基本の「海南鶏飯(シンガポールチキンライス)」 を徹底的に学びました。お店の看板メニューでしたし、チキンの火入れやソースの配合など、細かいところまでこだわり抜かれていたので、とても勉強になりました。
ケージー: それだけでなく、シンガポール研修にも行かれていたんですよね?
杉原さん: はい。働き始めて半年ほどで、シンガポールに研修へ行く機会をもらいました。 当時の海南鶏飯食堂では、スタッフ全員がシンガポールで本場の味を学ぶという方針があって、現地のホーカーセンターを巡りながら、料理を食べ歩く日々でした。
ケージー: 具体的にどんな研修だったんですか?
杉原さん: 朝から晩までひたすら食べ歩きです(笑)朝6時に集合してホーカーセンターで食べ、昼も夜も違う店を訪れて、1日で10軒以上回ることもありました。みんなで料理をシェアしながら、「この店のチリソースがいい」「ここの鶏肉の火入れが絶妙」といったことを細かく分析し、メモを取っていくんです。
ケージー: すごい!まさに本場の味を研究し尽くすスタイルですね。
杉原さん: そうですね。単に食べるだけじゃなく、「何が美味しさの決め手なのか?」 を徹底的に考えながら食べるので、すごく濃密な時間でした。帰国後は、そこで得た知識をもとに、さらに味の改良を重ねる日々でしたね!
立川での独立とシンガポールホーカーズの誕生
ケージー: シンガポール料理の魅力にどっぷりハマった杉原さんですが、独立を決意されたのはどんなタイミングだったんですか?
杉原さん: 海南鶏飯食堂で約6年働いて、自分なりにシンガポール料理の理解が深まった頃ですね。やっぱり「自分の店を持ちたい」という思いがずっとあって、独立のタイミングを考えるようになりました。ただ、「どこで店を開くか?」 というのはすごく悩みましたね。
ケージー: なるほど。やっぱりシンガポール料理のお店をやると決めていたんですか?
杉原さん: そうですね。他のジャンルをやる選択肢はなくて、「日本にもっとシンガポール料理を広めたい」 という気持ちが強かったので。でも、当時はまだ都内にもシンガポール料理のお店が少なかったですし、そもそも日本人にとって馴染みが薄い料理だったので、「果たしてどこで勝負すべきか?」と悩みました。
ケージー: それで、立川を選ばれたんですね?
杉原さん: 実は最初は吉祥寺あたりで物件を探していたんですが、なかなかいい場所がなくて。そのときに「立川もこれから発展していくエリアだし、エスニック業態は少ない」 ということに気づいたんです。吉祥寺や新宿にはエスニックのお店がたくさんあるけど、立川にはほとんどなかった。だったら、ここでシンガポール料理の魅力を広められるんじゃないかと思ったんですよね。
ケージー: 確かに、立川は大きな街ですが、エスニック料理の選択肢はそんなに多くなかったですよね。
杉原さん: そうなんです。しかも、立川は周辺の多摩エリアからも人が集まる場所なので、「ここなら新しい食文化を根付かせるチャンスがあるかも」と考えました。あとは、個人的に「まだシンガポール料理の店がないエリアで勝負したい」 という思いも強かったですね。
ケージー: 実際にシンガポールホーカーズをオープンしてみて、最初の反応はどうでした?
杉原さん: いやー、めちゃくちゃ大変でした(笑)やっぱりシンガポール料理自体を知らないお客さんがほとんどだったので、まずは「シンガポール料理とは?」 という説明から始めなきゃいけなかったんです。
ケージー: それは苦労しそうですね…。
杉原さん: 例えば、お客さんに「ラクサありますか?」 と聞かれることなんて最初はほぼなく「ラクサって何?」と聞かれる事が多かったです。海南鶏飯を「これはカオマンガイですか?」 って聞かれることが多かったです(笑)海南鶏飯とカオマンガイはルーツは同じでも違う料理なんですが、それくらい認知度が低かったんですよね。
ケージー: そうだったんですね!当時は認知がない状態だったんですね。。
杉原さん: そうですね。だから最初は、ポスティングをしたり、SNSで情報発信を続けたり、とにかく「シンガポール料理の魅力を知ってもらう」ことに力を入れました。あと、少しずつですが、シンガポールに行ったことがある人や、シンガポール料理が好きな人が見つけてくれるようになって、「ようやくお店が認知されてきたな」と思えたのは2年目くらいですね。
ケージー: なるほど、地道に広めていったんですね。でも、その甲斐あって、今ではすっかり立川の名店になりましたよね!
杉原さん: そう言ってもらえると嬉しいですね。でも、まだまだシンガポール料理の認知度は低いので、これからもっと多くの人に食べてもらいたいと思っています。
シンガポール料理の魅力と、日本での挑戦
ケージー: ここまでお話を聞いて、シンガポール料理の魅力がすごく伝わってきました!杉原さんが思う、シンガポール料理の最大の魅力って何でしょう?
杉原さん: やっぱり「多様性」ですね。シンガポールは多民族国家なので、料理のバリエーションがとても豊富なんです。中華、マレー、インドなど、異なる文化が融合していて、「今日はさっぱりしたもの」「今日はスパイシーなもの」みたいに、その日の気分で選べるのが大きな魅力ですね。
ケージー: たしかに、シンガポールホーカーズのメニューを見ても、チキンライスのようなシンプルなものから、スパイシーなラクサ、チリクラブのような豪快な料理まで幅広いですよね!
杉原さん: そうなんです。でも、日本ではまだ「シンガポール料理ってどんなもの?」と聞かれることが多いんですよね。タイ料理なら「トムヤムクン」や「ガパオライス」、ベトナム料理なら「フォー」や「バインミー」といった代表的な料理があるけれど、シンガポール料理にはまだそこまで認知された定番がない。
ケージー: たしかに、日本で「シンガポール料理といえばこれ!」というイメージは、まだ定着していないかもしれませんね。
杉原さん: でも、それって逆にチャンスでもあるんです。これから「シンガポール料理=これ!」という代表的な料理を確立していく段階なんですよね。まずは「チキンライス」や「ラクサ」をもっと広めて、多くの人に知ってもらうことが大事です。その上で、さらに「ペーパーチキン」や「チリクラブ」など、日本ではまだ馴染みのないシンガポール料理も定番化していきたいと考えています。
ケージー: 確かに、まずは知ってもらうことが重要ですよね。そういえば、テレビ番組にも取り上げられていましたよね?
杉原さん: はい、「有吉ゼミ」で紹介されたときは大きな影響がありました。放送後は「ラクサを食べてみたい!」という人が明らかに増えましたし、ラクサのカップラーメンが発売されたことで、より多くの人にシンガポール料理を知ってもらうきっかけになったと思います。
ケージー: 最近は、シンガポール旅行に行く人も増えているし、日本でもシンガポール料理への関心が高まってきている印象ですね。
杉原さん: そうですね。でも、まだまだ課題は多くて、特に「シンガポール料理=特別なもの」ではなく、日常的な選択肢にすることが重要だと考えています。
ケージー: 例えば、どういう形で広げていきたいですか?
杉原さん: まずは、「シンガポール料理は日本人の口にも合う」ということをもっと発信していきたいですね。例えば、ラクサのスープはココナッツの風味が効いていてまろやかなので、辛いものが苦手な人でも食べやすいし、チキンライスはシンプルだけど旨味が詰まっていて、老若男女問わず楽しめる料理です。
ケージー: なるほど。確かに、シンガポール料理って意外と馴染みやすいものが多いんですね!
杉原さん: そうなんです。でも、まだ「知らないから食べない」という人が多いので、そこをどう突破するかが今後の課題ですね。
ケージー: これから、シンガポールホーカーズとして挑戦していきたいことはありますか?
杉原さん: まずは、「シンガポール料理の認知度をもっと上げること」ですね。そのために、SNSの発信を強化したり、シンガポール料理をもっと日常的に楽しんでもらえるようなイベントを企画したりしたいと考えています。
ケージー: 例えば、どんなイベントを考えていますか?
杉原さん: シンガポールのローカルフードを楽しめる「ホーカーズフェス」みたいなものができたら面白いですよね。シンガポールのストリートフードを再現して、気軽に食べ歩きできるようなイベントをやってみたいです。
ケージー: それ、めちゃくちゃ楽しそうですね!シンガポールの屋台文化を体験できるのは、日本ではなかなかないですもんね。
杉原さん: そうなんです。あとは、地方にもシンガポール料理を広げていきたいですね。まだまだ東京以外では食べられる場所が少ないので、いつか地方でもシンガポール料理を気軽に楽しめるような環境を作りたいです。
ケージー: これからの展開が本当に楽しみです!最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。
杉原さん: シンガポール料理は、まだまだ日本では知られていない部分が多いですが、実は日本人の口に合う美味しい料理がたくさんあります! ぜひ一度、ラクサやチキンライスを食べてみて、新しい味の世界を楽しんでください!
ケージー: 素晴らしいメッセージをありがとうございます!本日はありがとうございました!
杉原さん: こちらこそ、ありがとうございました!
インタビュアーからの一言
シンガポールホーカーズ 立川は、ただのシンガポール料理店ではなく、日本にシンガポールの食文化を根付かせるための挑戦と情熱が詰まった店舗だと感じました!
オーナーの杉原さんの話からは、料理人としての技術だけでなく、シンガポール料理の魅力を伝え広めるという強い想いが伝わってきました。飲食店経営を単なるビジネスではなく、「食を通じて人と文化をつなぐ場」として捉えている姿勢が、店舗の温かく活気ある雰囲気につながっているのだと実感しました!


実際に訪れた店舗の様子や、こだわりのメニューについては、別記事で詳しく紹介しているので、ぜひそちらもご覧ください!
