西荻窪に店を構える「Hinodeya.」は、本格タイ料理を提供し、地域の人々に愛されるお店となっています。
店主の梅田さんは、大学卒業後に飲食業界へ飛び込み、タイ料理店での修行や居酒屋での経験を積みながら腕を磨いてこられました。
しかし、その道のりは決して順風満帆なものではありませんでした。修行時代の厳しさ、飲食業の厳しい現実、そして独立への挑戦—。 様々な壁にぶつかりながらも、梅田さんは「お客様に喜んでもらえる料理を作り続けたい」という強い想いを胸に、2022年に「Hinodeya.」をオープンされました。
今回のインタビューでは、梅田さんが料理人として歩んできた道のり、独立の背景、そして「Hinodeya.」の今とこれからについてお話を伺いました。料理へのこだわりや、経営の試行錯誤、そして支えてくれるお客様への想いについて語っていただきました。
日体大から飲食の世界へ—ペパーミントカフェとの出会い
ケージー:本日はお時間をいただきありがとうございます! 今日は梅田さんのこれまでの歩みや、飲食の道に進んだきっかけについてお話を伺えればと思います。どうぞよろしくお願いします!
梅田さん:こちらこそ、よろしくお願いします!
ケージー:ありがとうございます! では早速ですが、梅田さんはもともと飲食業界を志していたのでしょうか?
梅田さん:いえ、最初から料理人になろうと思っていたわけではなかったんです。実は大学を卒業する頃まで、飲食業に進むことを真剣に考えたことはありませんでした。父が公務員(高校の体育教師)だったこともあり、安定した職に就くのが普通という価値観の中で育ったので。ただ、ある時ふと気づいたのが、「自分は料理をしているときが一番楽しい」ということでした。特に、妻の実家で料理をする時間がすごく好きで、試行錯誤しながら作るのが楽しかったんです。
ケージー:家庭での料理の時間が、飲食業への興味につながったんですね!
梅田さん:そうですね。妻と一緒にご飯を作る機会が多くて、2人で料理して家族に振る舞ったりするのが楽しかったんです。そこで、「こういうことを仕事にできたら楽しいかもしれない」とぼんやり思い始めました。
ケージー:その気持ちが徐々に強くなっていったんですね。
梅田さん:そうですね。そんな時に、ちょうど妻が働いていたペパーミントカフェ系列のタイ料理店に行く機会があって、そこで初めて本格的なタイ料理を食べたんです。
ケージー:そこでの経験が大きかったんですか?
梅田さん:めちゃくちゃ大きかったですね! それまでタイ料理を食べる機会がなかったんですけど、初めて食べたときに「こんなに美味しいものがあるんだ!」と衝撃を受けて、それからどんどんハマっていきました。
ケージー:その時点では、もう飲食業界に進む決意は固まっていたんですか?
梅田さん:いや、その時点ではまだ決めきれていなかったです。でも、「もっと知りたい」「自分でも作れるようになりたい」という気持ちはすごく強くなっていましたね。
ケージー:それでペパーミントカフェで働くことを決めたんですか?
梅田さん:そうですね。妻が働いていたこともあり、お店のことを知っていたので、ダメ元で「ここで働けるかな?」と相談したら、どうにか採用してもらえたんです。
ケージー:運命的なタイミングですね! 実際に働いてみてどうでしたか?
梅田さん:いやー、最初は本当に何もできなくて、めちゃくちゃ苦労しました(笑)料理の基礎もない状態だったので、毎日が必死でしたね。でも、そのおかげで飲食の仕事の奥深さと面白さを知ることができたと思っています。
飲食の道への決意とペパーミントカフェでの修行
ケージー:ペパーミントカフェで働き始めて、最初は苦労されたとのことですが、どのような日々でしたか?
梅田さん:いやー、本当に何もできなくて大変でしたね(笑)もともと料理の専門学校に通ったわけでもなく、完全に未経験で飛び込んだので、包丁の握り方や仕込みの仕方など、飲食業の基本的なことすら分からない状態でした。
ケージー:いきなり飲食未経験から本格的な厨房に入ったわけですもんね…。
梅田さん:そうなんです。普通だったら、ある程度経験がないと厳しい環境だったと思うんですけど、ありがたいことに「やる気があるなら」と雇ってもらえました。ただ、当然ながら最初の1年くらいは、まったく戦力にならず…。
ケージー:それでも続けられたのは、何が支えになったのでしょうか?
梅田さん:やっぱり料理が楽しかったんですよね。最初は「ついていくのに必死」だったんですけど、少しずつできることが増えていくのが嬉しくて。先輩たちの動きを見て、どうしたらもっとスムーズに動けるかを考えたり、家で包丁の練習をしたり、とにかく毎日が学びでした。
ケージー:素敵ですね!飲食業の厳しさを感じる場面もありましたか?
梅田さん:もちろんです! 飲食は体力勝負だと身をもって実感しました。営業時間が長いので、仕込みを含めると1日中働いている感覚でしたし、特にタイ料理は仕込みの量が多いので、最初の頃はひたすら野菜を切る日々でした(笑)
ケージー:飲食の仕事は体力的にも精神的にも本当に大変ですよね。
梅田さん:はい。でも、ある日ふと気づいたんです。「自分はこの仕事が好きだ」って。どんなに忙しくても、「もう辞めたい」とは一度も思わなかったんです。むしろ、「もっと上手くなりたい」「もっとお客さんに喜んでもらいたい」という気持ちのほうが強くなっていきました。
ケージー:それは素晴らしいですね! その頃には、もう「飲食で生きていこう」と決めていたんですか?
梅田さん:そうですね。ペパーミントカフェで働きながら、「もう他の道はないな」と確信しました。最初は「とりあえずやってみよう」くらいの気持ちだったのに、気づけば「これを一生の仕事にしよう」と思うようになっていたんです。
ケージー:そこから本格的に、料理人としての道を歩み始めたわけですね。
アガリコへの転職とさらなる成長
ケージー:ペパーミントカフェでの経験を経て、次のステップとして「アガリコ」に転職されたわけですよね。どういう経緯だったのでしょうか?
梅田さん:一番の理由は、正社員として働ける環境を探していたことですね。ペパーミントカフェでは飲食の楽しさを学びましたが、やっぱりアルバイトのままでは将来が不安でした。結婚のタイミングもあり、安定した収入を得られる仕事を意識するようになったんです。
ケージー:そんな中でアガリコを選んだのはどういった経緯があるんですか?
梅田さん:実は、妻が以前アガリコ・オーナーである大林さんと一緒に働いていたんですよ。大林さんが新しくアガリコを立ち上げて、勢いよく店舗を展開していた時期で、「良い職場だから」と紹介してもらったんです。
ケージー:奥様とのつながりが、また新しいチャンスを生んだんですね!
梅田さん:本当にそうです。飲食の世界って、人との縁がすごく大事なんですよね。大林さんの話を聞いて、「ここならしっかりと社員として働きながら、さらに料理の腕も磨ける」と思い、転職を決めました。
ケージー:実際にアガリコで働き始めて、ペパーミントカフェ時代とはどんな違いを感じましたか?
梅田さん:一言でいうと、スピード感と経営視点ですね。アガリコは、とにかく回転が速い! 繁盛店ならではのオペレーションのスピード感を叩き込まれました。ペパーミントカフェではじっくり料理を学んでいましたが、アガリコでは「いかに効率よく、クオリティを落とさず提供するか」を徹底的に鍛えられました。
ケージー:さすがアガリコさんですね・・!
梅田さん:そうですね。お客さんの回転も速いし、求められるスキルのレベルも高い。ピーク時はもう、戦場のような忙しさでした(笑)でも、そういう環境だからこそ、厨房での立ち回り方を学べましたし、メニュー開発にも関わらせてもらえました。
ケージー:料理だけでなく、店舗運営の視点も学ぶ機会が増えたんですか?
梅田さん:はい!アガリコでは、仕入れの管理、原価計算、スタッフのマネジメントなど、飲食店を経営するために必要なことを学びました。ペパーミントカフェでは、料理の基礎を学びましたが、アガリコでは「飲食店を回す力」を身につけた感じです。
ケージー:料理人としての成長だけでなく、将来の独立に向けた準備にもなったんですね!
梅田さん:そうですね。店長を任せてもらったことで、経営の視点でお店を見られるようになったのは大きかったです。アガリコでの5年間がなければ、今の自分はなかったと思います。
独立への決意と青二才での経験
ケージー:アガリコで店長としての経験を積まれた後、次のステップとして「青二才」に移られたんですね。これはどのような経緯だったのでしょうか?
梅田さん:アガリコでは5年間働きましたが、最終的には「自分の店を持ちたい」という思いが強くなったんです。店長として運営に関わる中で、「いずれは自分の店をやる」という意識が芽生えてきて。そんな時に、知り合いの紹介で青二才に誘われたんです。
ケージー:青二才は、和食と日本酒に強いお店ですよね。エスニック料理からガラッとジャンルが変わるのは、少し意外な選択にも感じます!
梅田さん:そうなんですよ。実は自分でも「和食の店で働くとは思わなかったな」と(笑)でも、独立を考えたときに、やっぱりエスニック料理だけじゃなく、もっと料理の幅を広げたいという気持ちがあったんです。それに、青二才は日本酒の品揃えも豊富で、ドリンクの知識も深められると思いました。
ケージー:実際に働いてみて、どんな学びがありましたか?
梅田さん:一番大きかったのは、料理のバランス感覚ですね。和食って、繊細な味の調整が求められるんです。タイ料理は比較的、パンチのある味付けが多いですが、和食は出汁の旨味や素材の持ち味を活かすことが大事。その違いを肌で感じながら、調理技術を磨けたのは貴重な経験でした。
ケージー:確かに、エスニックと和食は方向性が違いますよね。その経験が後のタイ料理作りに活きてきそうですね!
梅田さん:そうですね。青二才では、日本酒と料理の組み合わせも学べましたし、エスニックの要素を和食に取り入れる発想も鍛えられました。結果的に、「自分が作るべき料理とは何か」を改めて考えるきっかけにもなりました。
ケージー:独立に向けた準備という意味でも、重要な期間だったわけですね。
梅田さん:はい。アガリコで学んだ「経営視点」と、青二才で学んだ「料理の幅を広げる力」。この二つが揃ったことで、「もう独立しても大丈夫だ」と思えるようになりました。青二才での3年間を経て、ついに自分の店を持つ決断をしました!
西荻窪での独立と「Hinodeya.」の誕生
ケージー:青二才での経験を経て、ついに独立を決断されたんですね。お店を出す場所として西荻窪を選んだ理由は何かあったんですか?
梅田さん:一番の理由は「妻の実家が近かったこと」ですね。家族のサポートが受けやすいというのは大きかったです。それに、自分自身も西荻窪という街の雰囲気が好きだったんですよ。吉祥寺ほど商業的ではなく、かといって静かすぎるわけでもない。ローカル感がありつつ、おしゃれな店や個性的な飲食店が点在している。 そういうバランスの良さに惹かれました。
ケージー:たしかに、西荻窪は独特の空気感がありますよね。いわゆる「チェーン店」よりも個人経営の飲食店が多く、食にこだわる人が集まる街という印象があります。
梅田さん:そうなんです。それに、西荻窪って「食べることが好きな人」が多いんですよね。いろんなジャンルの料理が楽しめる街だし、新しいものを受け入れる土壌がある。だから、「ここなら自分がやりたいことを形にできる」 と思いました。
ケージー:そこから、物件探しを始めたわけですね。
梅田さん:そうです。でも、西荻窪ってなかなか飲食店向きの物件が出ないんですよ。1年くらい探して、ようやく今の場所に巡り合いました。 実は元々喫茶店だった物件で、長年ご夫婦で営業されていたんですが、引退を考えていたタイミングだったんです。そこで、不動産屋さんを通じて話を聞いてもらい、「次に入る人を探している」と聞いて、すぐに動きました。
ケージー:まさに運命的なタイミングですね! そこからお店作りをスタートさせたわけですが、コンセプトは最初から明確だったのでしょうか?
梅田さん:はい、最初から 「エスニック料理をベースにしつつ、和の要素を取り入れたオリジナルの料理を提供する」 という軸は決めていました。青二才で学んだ和のエッセンスを活かしながら、自分ならではの料理を作る。それが「Hinodeya.」のコンセプトです。
ケージー:素敵ですね! いよいよ開業に向けて動き出すわけですが、準備期間はスムーズに進みましたか?
梅田さん:いや、正直めちゃくちゃ大変でした(笑)資金調達、メニュー開発、内装工事……すべてゼロからのスタートですからね。特に資金面では、日本政策金融公庫からの融資を受けるために、事業計画書を作成したり、いろいろな審査を乗り越えたりと、慣れないことばかりでした。ある月の支払いを終えた時、口座の残高が1万5,000円しかなかったこともあって、「これ、本当に大丈夫か?」って本気で焦りました。
ケージー: 1万5,000円……! それは相当ギリギリですね。
梅田さん: はい。飲食店を始めるって、最初はとにかくお金がどんどん出ていくんですよ。売上が軌道に乗るまでの運転資金をしっかり確保しておかないと、すぐに詰むなって実感しました。
ケージー:なるほど、開業の裏側にはそんな苦労があったんですね。オープン日はいつだったんですか?
梅田さん:2022年1月ですね。でも、このタイミングがまた大変で……ちょうどコロナ禍の影響がまだ続いていた時期 だったんですよ。
ケージー:確かに2022年の初めは、まだ営業時間の制限などもあった時期ですよね。
梅田さん:そうなんです。オープン直後は夜の営業ができなくて、ランチ営業のみでした。でも、逆にそれが良い方向に働いた部分もあって。まずはランチでお店の存在を知ってもらい、徐々に常連さんを増やしていけたというのは、今振り返ると良かったかもしれません。
開業後の試行錯誤と、Hinodeya.が目指すこれから
ケージー:2022年のオープン直後は、コロナ禍の影響で夜の営業ができなかったとのことですが、その後の展開はどうでしたか?
梅田さん:最初の数ヶ月はランチ営業のみで、まずは地元のお客さんに知ってもらうことを優先しました。ただ、やっぱりディナー営業ができないのは厳しかったですね。エスニック料理はお酒との相性もいいので、夜の営業が本格化すれば売上も安定するはずだと思っていました。でも、なかなか思うようにいかなくて……。
しかも、ランチで毎日フル稼働していると、本当に体が持たなくなるんですよ。特にエスニック料理って、火を使う時間が長いし、スパイスの香りや煙がすごいので、厨房がとにかく暑い。真夏のランチなんか、サウナ状態です(笑)
ケージー:そうだったんですね(笑)そこからどのように軌道修正していったのでしょうか?
梅田さん:まずは「夜の営業にシフトする」ことを意識しました。ランチ営業だけだと利益率が低いので、ディナーでしっかりとお酒を楽しんでもらう方向に持っていく必要があったんです。 そこで、まずはメニューを見直しました。
ケージー:具体的にはどのようなメニューの変更を行われたんですか?
梅田さん:ランチはシンプルに「エスニック×和」のコンセプトを打ち出しつつ、夜はお酒に合う料理を強化しました。例えば、スパイスを効かせた前菜や、おつまみ感覚で楽しめる小皿料理を増やしたり、お酒とのペアリングを意識してメニュー開発をしました。
ケージー:なるほど!ランチとディナーでお客さんのニーズをしっかり分けたんですね。
梅田さん:はい。それから、もう一つ重要だったのが「どうやってお店の存在を知ってもらうか」ということ。最初は口コミや地元のお客さんの紹介に頼るしかなかったのですが、それだけではなかなか限界があって……。
ケージー:プロモーション面でも試行錯誤されたんですね。
梅田さん:そうですね。でも、広告費をかける余裕はないので、SNSを活用したり、既存のお客さんとのつながりを大切にしたりすることを意識しました。例えば、お客さんとの会話の中で「どんな料理が食べたいか?」をリサーチしたり、イベント的な企画を打ち出して話題を作ったりして、少しずつファンを増やしていきました。
ケージー:実際に、それが形になってきたのはいつ頃からでしょうか?
梅田さん:オープンから1年経った2023年の夏頃 ですね。それまでは本当に不安定で、「このまま続けられるのか?」と思うこともありました。でも、少しずつリピーターが増えてきて、「また来ます」と言ってもらえる機会が増えたのが、大きな転機だったと思います。
ケージー:そうやって地道に続けてきた結果、今のHinodeya.さんがあるわけですね。最後に、お店を支えてくれているお客さんにメッセージをお願いします。
梅田さん:本当に、感謝の気持ちしかありません。 いろんなお店がある中で、Hinodeya.を選んで来てくださること、それだけでとてもありがたいです。「また来たい」と思ってもらえるような店を続けていくことが、僕にできる一番の恩返しだと思っています。 これからも、美味しい料理と心地よい空間を提供できるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!
ケージー:素敵なメッセージですね! 本日はありがとうございました!
インタビュアーからの一言
Hinodeya.は、エスニック料理を軸に色んな料理のエッセンスを掛け合わせた、梅田さんならではの感性が光るお店だと感じました!
店主の梅田さんからは、「料理を通してお客さんに喜んでもらいたい」というまっすぐな想いが伝わってきて、それが料理にも空間にも表れていました。
飲食業界未経験からスタートし、数々の人気店で修行を重ねてきた梅田さん。飲食店を「単なる食事の場」ではなく、「文化や想いを届ける場」として向き合っている姿勢が、Hinodeya.というお店の空気感そのものを作っていると実感しました。



実際に訪れた店舗の様子や、梅田さんのこれまでの歩みについては別記事で詳しく紹介しているので、ぜひそちらもご覧ください!
