北千住の路地裏に佇むベトナム料理店『HANOI&HANOI』
オーナーの中根さんは、もともとアパレル業界出身という異色のキャリアをお持ちですが、本場ベトナムで出会った味や雑貨に感動し、その思いを形にしてこられました。
「文化を伝える仕事」として飲食に取り組んでいらっしゃる中根さんに、開業までの道のりや、17年間続けてきた“本場へのこだわり”と“遊び心”についてお話を伺いました。
アパレル業界から飲食の世界へ──きっかけは「褒められること」と「ベトナムとの出会い」
ケージー: 本日はお時間いただきありがとうございます!ずっとお話を伺いたかったので、すごく楽しみにしていました。
中根さん: こちらこそ、ありがとうございます!
ケージー: 早速ですが、中根さんはもともとアパレル業界にいらっしゃったんですよね?最初から飲食を目指していたわけではなかったとか。
中根さん: はい、そうなんです。最初は飲食なんて1ミリも考えていませんでした。大阪でアパレルの仕事をしていて、雑貨や洋服を作る仕事をしていました。でも、生活のために入った飲食店のアルバイトで、自分の料理を「美味しい!」って褒めてもらえることが増えてきて。そんなときに「私でもやれるかもしれない」と思い始めたんです。
ケージー: そういう背景があったんですね!だけど、アパレルから飲食業界って全然違うフィールドですし、不安はありませんでしたか?
中根さん: もちろんありました。でも「好きなことをやりたい」という気持ちが勝ちましたね。転機はやっぱり結婚して東京に引っ越したことです。新婚旅行でベトナムに行ったときに、バインミーやベトナムコーヒーに出会って、衝撃を受けました。「なんでこんなに美味しいの!?」と心から思った瞬間です。
ケージー: それが『HANOI&HANOI』さんの原点なんですね。
中根さん: はい。本当にあのときの衝撃が全ての始まりです。帰国後はまずベトナム雑貨のネットショップを始めました。雑貨を仕入れにベトナムに行く回数も増えて、どんどん現地の魅力にはまっていったんです。
ケージー: そこから飲食店をやろうと思ったきっかけはあったんですか?
中根さん: 当時、今のお店の物件を紹介してもらったときに、「雑貨だけじゃ友達も来にくいから、コーヒーでも置いて人が集まる場にしたほうがいい」ってアドバイスをいただいて。それを聞いた瞬間、「じゃあ、やるならベトナム料理のお店にしよう!」と決めました。本場の味を日本に広めたいという気持ちが強かったんです。
ケージー: 大阪時代の料理経験、そしてベトナムとの出会い。全てが繋がって今があるんですね。
中根さん: 本当にそうです。「好き」と「やってみたい」という思いでここまで来ました。気づけばもう17年、あのときの感動がなければ今の私はいません。
「本場へのこだわり」と「日本らしさ」のバランス──パンづくりから始まった挑戦
ケージー: ベトナム料理店をやると決めてから、最初に直面した課題は何でしたか?
中根さん: 一番苦労したのは「バインミー用のパンづくり」です。最初の頃は、現地と同じようなパンを日本で作るのが本当に大変で…。ベトナムのパンって軽くてサクサクしていて、でもしっとり感もあるんです。これを日本の材料とオーブンで再現しようとして、3カ月以上毎日試作しました。
ケージー: それは相当な努力ですね!もうパン職人レベルじゃないですか…。
中根さん: いや、本当に(笑)当時は一緒にパン作りをしてくれる友人と二人三脚でやっていました。でも最終的にはやっぱり「パンはパン屋さんに頼もう」と決断しました。素人がいくら頑張っても町のパン屋さんの技術には敵わないですし、プロの力を借りることも大事だと気付いたんです。
ケージー: そこから「本場の味」と「日本でできること」のバランスを考え始めたんですね。
中根さん: そうです。最初は「現地そのままの味じゃなきゃダメ!」って思っていました。でも続けていくうちに、「日本の食材や環境でどうベトナム料理を表現するか」が大事だと気づきました。今は、日本の美味しいパンを使って、日本ならではの美味しいバインミーを作るというスタンスです。
ケージー: 本場へのこだわりと、日本ならではの工夫。そのバランスが中根さんの強みですね。
中根さん: ありがとうございます。「本物であること」と同時に「日本でどう楽しんでもらうか」をいつも考えています。お客様に「ここでしか味わえない体験だった」と思ってもらえることが、一番嬉しいです。
北千住という街と共に歩んだ17年──「ここでやる意味」とお客様への思い
ケージー: お店は北千住でスタートされたんですよね。立地としては少し「穴場」という印象もありますが、最初から北千住でやることを決めていたんですか?
中根さん: 実は、「北千住でやろう!」と最初から決めていたわけではなくて、縁があってこの場所を譲り受けたんです。でもオープンしてから思ったのは、この街には温かい人が多くて、お店を育ててくれる環境があるということでした。
ケージー: お店をスタートされてからはどんな感じだったんですか?
中根さん: 全然です(笑)最初は本当にお客様が来なくて、不安で仕方なかったです。でもあるとき、最初に手伝ってお店のレシピを引き上げてくれてた元アジア料理人のスタッフ(今は長く友人)が「自分の街に、こんな店ができて嬉しい」と言ってくれたんです。それがすごく励みになりました。
ケージー: その言葉が支えになったんですね。
中根さん: はい。そこからは「この街で愛される店になろう」と決めました。北千住は下町っぽい雰囲気もありながら、新しいものを受け入れてくれる懐の深さもあって。競争ではなく、共存できる街なんですよ。
ケージー: 長く続ける秘訣は「街と共に育つこと」なのかもしれませんね!
中根さん: 本当にそう思います。お客様や街の人に教えてもらいながら、17年間やってこれたというのが正直なところです。これからも、北千住だからこそできるお店づくりを続けていきたいです。
本場に忠実に。でも、今は“日本だからこそできる”ベトナム料理も楽しみたい
ケージー: 中根さんは本場の味へのこだわりをずっと持ち続けていらっしゃいますよね。その中で、日本で提供する難しさを感じたことはありますか?
中根さん: はい、最初の頃は「こんなのベトナム料理じゃない」とか「高すぎる」と言われることもたくさんありました。当時はベトナム料理自体の認知度も低かったですし、アジア料理=安いものというイメージが強くて。
ケージー: 今は価格帯もだいぶ変わっていますが、どんな転機があったんでしょう?
中根さん: 周りの料理人やプロの方たちに「もっと堂々と、自分の作りたい料理を作って値段も上げた方がいい」と言われたことです。最初は不安でしたが、値段を上げたことで客層がガラッと変わりました。 本当にベトナム料理を楽しみたい方が来てくれるようになって、「高くても満足できるものを出す」という方向にシフトできました。
ケージー: 最近では、日本の食材を使ったアレンジもされているそうですね。
中根さん: はい。本場の味を守ることは今も大切にしていますが、日本の素晴らしい食材や四季を活かして、より広がりのあるベトナム料理を作りたいと思うようになりました。例えば、日本のフルーツや旬の野菜を使って、現地にはないけど「これもあり!」と思えるようなサラダを作ったりしています。
ケージー: 「本場へのリスペクト」と「日本ならではの遊び心」の両立なんですね。
中根さん: そうですね。ブレずに大切にしてきた“本物”を基礎にしながら、ここでしか食べられない料理を作る。それが今の私の楽しみでもあり、やりがいです。
「これからも“本場”と“遊び心”を大切に。お客様と一緒に楽しめる店を目指して」
ケージー: 最後に、今後『HANOI&HANOI』さんをどんなお店にしていきたいと考えているか教えてください。
中根さん: これからも“本場の味”は大事にし続けます。 でも同時に、もっともっと自分らしい“遊び心”も入れていきたい。たとえば、まだ知られていない少数民族の料理とか、現地で体験した驚きをそのままお届けできるようなコース料理も作っていきたいです。
ケージー: それはとても楽しみです!やはり“体験”がキーワードなんですね。
中根さん: そうですね。料理を通して「非日常」を感じてもらいたいんです。 1回きりじゃなく、何度来ても新しい発見があるようなお店でありたい。そのために、今年はベトナム料理×ワインのイベントやマニアックなコースもどんどんやっていくつもりです。
ケージー: それは絶対に行きたいです!
中根さん: ぜひ来てください!あとは、「ここに来たら楽しい」「落ち着く」「安心できる」そんな場所であり続けたいです。スタッフやお客様と一緒に楽しみながら、このお店をもっと育てていきたいですね。
ケージー: これからのハノイハノイさんが楽しみですね!本日はインタビューのお時間いただき、ありがとうございました!
インタビュアーからの一言
北千住の路地裏にたたずむ『HANOI&HANOI』は、本場ベトナムの味と空気感を、日本でリアルに再現しているベトナム料理店だと感じました!
オーナーの中根さんは、アパレル業界から飲食の世界へと飛び込み、現地で出会った味や雑貨に感動した体験を、17年にわたり「料理と空間」に落とし込んできた情熱の持ち主。ベトナムで感じた“ワクワク”や“驚き”をそのまま日本に届けたいという強い想いが、取材を通じて何度も伝わってきました。
現地らしさにこだわりながらも、日本の食材や感性を柔軟に取り入れる姿勢からは、“異文化へのリスペクト”と“遊び心”の絶妙なバランスを感じました。北千住という街に根を下ろし、お客様と一緒にお店を育ててきたという歩みにも、深いあたたかさがあります。
実際に訪れた店舗の様子や、中根さんのこだわりが詰まったメニューについては、別記事で詳しくご紹介しています。ぜひそちらもチェックしてみてください!