笑顔の国から吉祥寺へ─“アジア食堂ココナッツ店主なっちゃん”が届けるタイの空気

東京・吉祥寺のハモニカ横丁に佇む、タイ料理店「ココナッツ」。

バンコクのようなにぎやかな雰囲気を出している1階、タイリゾート感あふれる2階、そしてチェンマイのような落ち着いた雰囲気の3階──それぞれ異なる顔を持つ3つのフロアは、まるでタイを旅しているような気分にさせてくれます。

そんなお店を切り盛りするのは、タイ国籍を持つ、笑顔が印象的な”ココナッツ娘なっちゃん”。高校生の頃に両親が始めたお店を、社会人経験を経て受け継ぎ、今では接客から発信、空間づくりまでを一手に担っています。

「赤ちゃんも猫ちゃんも、誰でもウェルカム」。そう語るなっちゃんの笑顔の奥には、タイで生まれ、日本で育ち、そして今“タイの文化と日本をつなぐ場所”をつくり続ける強い意思がありました。

今回のインタビューでは、“微笑みの国の空気”を吉祥寺で届けるなっちゃんと共に歩むココナッツの変遷や、ココナッツと共に目指す世界についてお話を伺いました。

目次

高校2年生から始まった“家族の店”と、自分のキャリアの重なり

ココナッツオーナーのなっちゃん①
ココナッツオーナーのなっちゃん①

ケージー:今日はよろしくお願いします!さっそくですが、「ココナッツ」は今年で15周年なんですよね?

なっちゃん:はい、そうなんです。2010年10月9日にオープンして、今年で丸15年になります。実は、私が高校2年生のときに両親が始めたお店なんです。

ケージー:15周年おめでとうございます!高校生のときからすでにタイ料理屋が家業だったんですね。

なっちゃん:そうなんです。最初はお店に立っていたのは父と、当時一緒にやっていたタイ人の女性でした。途中からは母がキッチンに立つようになって、父がホールを担当するようになって。私は高校を卒業して大学に進学して、その後、新卒で車のディーラーに就職しました。

ケージー:一度、まったく別の業界に就職されたんですね。

なっちゃん:はい。車のディーラーで4年半、社会人として働いて、その後に今のお店に戻ってきた感じです。きっかけは、父の体調があまり良くなかったこともあって、今後の人生を考えたときに、「自分で何かやった方が楽しいんじゃないか」と思ったんです。

ケージー:それでココナッツを引き継ぐ決意をされたんですか?

なっちゃん:そうですね。26〜27歳のときに会社を辞めて、店に入りました。そこからはもう、キッチンもホールも経理も、全部経験して。最初は“お母さんに弟子入り”して、料理も一通り覚えました。

ココナッツの内観①
ココナッツの内観①

ケージー:いまは、もう完全に“なっちゃん体制”ですよね?

なっちゃん:そうですね。今は、私が接客やホール業務を中心に担当し、厨房はコックさんにお任せしています。お父さんが経理や事務をしてくれていて、土日は両親がサポートに来てくれたり、アルバイトスタッフと一緒に回しています。平日は基本的に2人とか3人で回すことも多くて、なかなかコンパクトな体制です(笑)

吉祥寺・ハモニカ横丁という“運命の場所”

ココナッツオーナーのなっちゃん②
ココナッツオーナーのなっちゃん②

ケージー:お店があるのは、吉祥寺の中でも特に独特な雰囲気のハモニカ横丁。なぜこの場所を選ばれたのですか?

なっちゃん:もともと、父は食品関係の会社員で、母はパート勤務。その父が20年以上勤めた会社を辞めることになって、「夫婦で何か始めよう」と考えたのがきっかけでした。最初はタイ料理か、タイマッサージをやろうかって話してたんです。

ケージー:タイマッサージをやる可能性もあったんですね!

なっちゃん:はい(笑)母がタイマッサージの資格を持っていたので、そういう選択肢も本気で考えていたみたいです。でも、たまたまタイ人のコックとの縁もあって、「やっぱりタイ料理だね」ってことになったんです。

ココナッツオーナーのなっちゃんと内装
ココナッツオーナーのなっちゃんと内装

ケージー:それで物件を探し始めた感じなんですね!

なっちゃん:そうです。当時住んでいた船橋から、中央線沿線でいろんな物件を探していたんですが、そのときコックさんが「吉祥寺がいいよ」って強くおすすめしてくれて。でも、吉祥寺って家賃が高くて最初は諦めようかと思ったんです。実際、見に行った日は不動産屋も休みで。

ケージー:そんな中で、今の場所に出会ったんですね?

第6回エスニックパーティーの様子

なっちゃん:はい。たまたまその日、ハモニカ横丁の物件の張り紙を貼ろうとしていた不動産屋さんに出会って、声をかけたんです。当時その物件はネイルサロンで、3階建て。家賃も結構高くて、父は「やめよう」って言ったらしいんですけど、母が「ここがいい」って直感で押し切って(笑)

ケージー:まさに“お母さんのひと押し”ですね!

なっちゃん:そうなんです。しかも、住所が「吉祥寺本町1-1-9」で。私が1月19日生まれ、母が11月9日生まれということで、「運命だね」って(笑)いろいろ偶然が重なって、“ココナッツ”はここハモニカ横丁で始まったんです。

車のディーラー時代に学んだ“接客力”と、記憶のホスピタリティ

ココナッツオーナーのなっちゃん③
ココナッツオーナーのなっちゃん③

ケージー:先ほどお話ししてくださったように、なっちゃんは以前車のディーラーでショールームスタッフとして働かれていたんですよね。

なっちゃん:はい。新卒でトヨタのディーラーに就職して、4年半ほどショールームで働いていました。実は、そのとき女性ショールームスタッフ250人のうち、外国籍は私だけだったんです。

ケージー:それはすごいですね……!採用されるのも大変だったのでは?

なっちゃん:正直、いくつかの国産ディーラーでは国籍の壁で不採用になったこともありました。でも、社長がとてもフラットな方で、「国籍関係なく、うちで働いていいよ」って言ってくださって。最終面接の時は「サワディカップ」の挨拶で緊張をほぐしてくれました。

ケージー:そんな接客の現場で、何を一番大切にされていたんですか?

なっちゃん:“記憶すること”です。私はお客様ノートを自作していて、名前・車のナンバー・家族構成・好きな飲み物まで全部メモしてました。だから、オイル交換や車検で来たお客様に「いつものアイスコーヒーですね」って出せるんですよ。用事がなくても顔を出してくれるお客様もいて、接客ってすごく深いなと感じていました。

ケージー:その接客力が、今のココナッツでも活かされているんですね。

なっちゃん:そうですね。今も、お客様の顔と名前はだいたい覚えてますし、Instagramのフォロワーさんもかなり把握してます。「覚えてくれてるんですね!」って言われると、やっぱり嬉しいですよね。接客って“人と人との記憶”だと思ってるんです。

3階建て、3つの都市─バンコク・プーケット・チェンマイを表現した空間づくり

ココナッツオーナーのなっちゃん④
ココナッツオーナーのなっちゃん④

ケージー:ココナッツといえば、3階建てでフロアごとにコンセプトが違うのがとてもユニークですよね。これは最初からそういう設計だったんですか?

なっちゃん:いえいえ、最初は1階と2階だけで営業していて、3階は倉庫と洗濯スペースでした。でも3階で休憩している時、天井がちょっと低くて落ち着く空間だったので、「ここ、座敷にしたらいいかも」と思って。それがきっかけで2023年4月に3階をリニューアルオープンしました。

ケージー:それぞれの階にタイの都市名がついてますよね?

ココナッツの内観②
ココナッツの内観②

なっちゃん:はい。1階は“バンコク”。ガヤガヤした感じで、立ち飲みもできるにぎやかな雰囲気にしてます。2階は“プーケット”で、ちょっとリゾート感があるような雰囲気。3階は“チェンマイ”で、座敷の落ち着いた空間。プライベート感があって、ファミリーのお客様も多いです。

ココナッツ2階プーケットの内観
ココナッツ2階プーケットの内観

ケージー:すごく立体的な空間づくりですね!

なっちゃん:はい。それぞれの階でお客様の過ごし方が違うのが面白くて。1階は友達同士でワイワイ飲む人たち、2階はカップルや団体のお食事、3階は赤ちゃん連れのファミリーやプライベートを大事にしたいお客様。

ケージー:タイの“微笑みの国”らしい、みんなに開かれた空間ですね。

なっちゃん:そうですね。“誰でもウェルカム”なお店にしたくて。赤ちゃんからおじいちゃんおばあちゃん、ワンちゃん、ネコちゃん、カメちゃんまで。みんなが幸せそうに過ごしてくれると、こちらもすごく嬉しいです。

赤ちゃんから猫ちゃんまで。“誰でもウェルカム”なココナッツの未来

ココナッツオーナーのなっちゃん⑤
ココナッツオーナーのなっちゃん⑤

ケージー:さきほど少し話にも出ましたが、最近はファミリー層や赤ちゃん連れのお客様も増えているそうですね。

なっちゃん:はい、ほんとに増えてます!特に3階の“チェンマイフロア”は、赤ちゃんや小さなお子さんを連れたファミリーに大人気なんです。座敷だから寝かせやすいし、靴を脱げる安心感もあるし、プライベート感があるので“赤ちゃんデビュー”にもぴったりなんです。

ケージー:まさに“誰でもウェルカム”ですね。

方南町タイ祭り・ココナッツメンバー

なっちゃん:そうなんです。最近は猫ちゃん2匹連れて来てくれたお客様もいたりして(笑)ペット連れのお客様も大歓迎。「赤ちゃんからお年寄りまで、猫ちゃんもワンちゃんもうさぎちゃんも、みんなが笑顔になれるお店」っていうのが、理想なんです。

ケージー:すごくココナッツらしいコンセプトですね。

なっちゃん:実際に、3階を使って2世帯合同のパーティーを開かれる方もいらっしゃるし、「3階作ってよかったな」って思います。私自身、お客様の笑顔を見て「この空間、正解だったな」って日々感じています。

ケージー:なっちゃんの細やかな観察と、誰かを喜ばせたいという気持ちが、本当に形になってますね。

なっちゃん:ありがとうございます。お客様の年代も、国籍も、目的も、全部バラバラだけど、“楽しかった”って帰ってくれることが一番嬉しいんですよね。

“微笑みの国”の空気をそのままに──なっちゃんのこれからの夢

ココナッツオーナーのなっちゃん⑥
ココナッツオーナーのなっちゃん⑥

ケージー:最後に、なっちゃん自身とお店「ココナッツ」のこれからの展望について教えてください。

なっちゃん:まずはやっぱり、「笑顔と幸せが溢れるお店」にしていきたいです。タイに行ったことがある人も、まだ行ったことがない人も、「ここに来たらタイに行きたくなる!」って思ってもらえるような、そんな空気を大切にしたいですね。

ケージー:旅の前のミーティング場所にもなるような。

なっちゃん:実際に、「来月プーケット行くから“プーケットミーティング”で来ました!」っていうお客様もいらっしゃいます(笑)。私が生まれたバンコク、好きな海のプーケット、ゆったりしたチェンマイ。それぞれの空気をフロアに込めて、ここから“旅のきっかけ”を生み出したいですね。

東京タイフェスティバル2024・ONE Championshipムエタイステージ①

ケージー:個人としての活動も、いろいろ広がっているそうですね?

なっちゃん:はい。「タイ料理」「ムエタイ」「旅行」「衣装(タイ衣装)」この4つのテーマで、これからも活動を広げていきたいと思ってます。たとえば、お店でタイ衣装の貸し出しをしたり、ムエタイイベントのMCや通訳をしたり。あとは、旅行関係の仕事にも関わっていきたい。日本も47都道府県のうち40県回ってますし、旅行はずっと大好きな分野なので!

ケージー:タイ文化を起点に、暮らしや人生をもっと楽しくしていく活動ですね。

東京タイフェスティバル2024・ONE Championshipムエタイステージ②

なっちゃん:そうなんです。タイ料理を通じて、笑顔を増やして、タイをもっと身近に感じてもらいたい。そのためにも、いろんな年代やライフスタイルの人たちに優しいお店を、これからも丁寧につくっていきたいです。

ケージー:最後に、エスニック総研の読者、そしてこれから来るかもしれないお客様に向けて、メッセージをお願いします!

なっちゃん:はい。「赤ちゃんも猫ちゃんも、誰でもウェルカムです!」どんな方でも、笑顔になって帰ってもらえるお店を目指して、これからも元気にお店を開けていきます。ぜひ、ちょっとでもタイが気になる方、アジアが好きな方、ココナッツに遊びにきてください!わたしの人生のテーマは【タイと日本を通じてみなさまに笑顔をお届けします❤️】 PORNTIP JAPAN🇯🇵

ケージー:本日はありがとうございました!タイの風と笑顔が詰まった、素敵なお話でした!

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