東京・浅草橋に本店を構える人気タイ料理店「スマイルタイランド」。この店を立ち上げたのは、元々37年間商社マンとして活躍してきた三原さん。
異国の地・タイでの駐在経験を通じて出会った現地の人々や文化に感銘を受け、「自分にできる形で彼らを支援したい」という思いから、全く異なるフィールドで新たな人生をスタートさせました。
今回のインタビューでは、三原さんの歩んできた道、立ち上げ当初の苦労や現場スタッフとの関係性、そしてスマイルタイランドの今後についてじっくりと語っていただきました。
元商社マンから飲食業界へ―タイとの出会いが人生を変えた瞬間
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ケージー:本日はお時間ありがとうございます!まず最初に、三原さんがタイと関わりを持つようになったきっかけについてお伺いしてもいいですか?
三原さん:こちらこそ、ありがとうございます。僕はもともと37年間、自動車部品の商社に勤めていたんですよ。で、海外駐在でシンガポールやマレーシアに行ったりして…最後の赴任地がタイでした。
ケージー:え!タイは最後の赴任地だったんですね。最初からタイ語も話せたんですか?
三原さん:いやいや、全然ダメでした(笑)ビザの更新ひとつとってもわからないことだらけで、入国管理局で怒られたりしてましたよ。そんな僕を助けてくれたのが現地のタイ人スタッフたちで。本当に、もう感謝しかないです。
ケージー:現地の人たちの優しさに触れたんですね。
三原さん:はい。何もできない僕に対して、嫌な顔ひとつせず支えてくれた。言葉もわからない、文化も違う、だけど困っている僕を一生懸命助けてくれる。それが本当に嬉しくてね。「この人たちのために何かできないかな」と、自然に思うようになったんです。

ケージー:そこから、実際に行動に移されたわけですね。
三原さん:そうなんです。タイ人コミュニティに深く関わるようになって、今度は逆に「日本でお店をやりたいけど、やり方がわからない」という相談を受けることが増えてきたんですよ。だったら、「僕が箱を用意するよ」と。最初は副業として、物件を借りて、内装を整えて、保健所や消防署の許可を取って…もう本当に勉強の日々でした(笑)
ケージー:大きな決断ですね。商社マンから飲食業界へ飛び込むって、怖さはありませんでしたか?
三原さん:正直、なかったです。むしろ面白そうだなって思いましたね。商社時代も常に新しいことに挑戦してきたので、それを今度は自分の人生に置き換えるだけ。ワクワクしてました。

ケージー:素晴らしいですね!タイでの経験と人との出会いが、今の三原さんを作ったんですね。
三原さん:まさにそうです。スマイルタイランドの原点は、「タイへの恩返し」と「人への感謝」。その気持ちがなかったら、今ここに僕はいないですね。
「箱を用意する」から始まった挑戦―店舗づくりとスタッフへの信頼

ケージー:三原さん、実際にお店を立ち上げるときって、飲食経験ゼロからのスタートですよね?大変だったんじゃないですか?
三原さん:いやぁ、めちゃくちゃ大変でしたよ(笑)飲食店経営なんて全く知らなかったですから。保健所や消防署のルールもゼロから勉強して、「手洗い場が三つ必要」とか「グリストラップって何?」とか、全てが初めての世界。
ケージー:でも、そんな中で「箱を用意して、あとは現場に任せる」っていう発想が本当にすごいと思います。普通なら自分で仕切ろうとするじゃないですか。

三原さん:僕は商社時代から「人を信じて任せる」っていうスタンスだったので、それが自然だったんですよ。だから「このお店は君たちが決めていいよ」って言ったら、スタッフたちが本当に嬉しそうに、内装からスプーンやテーブルクロスまで全部決めてくれました。
ケージー:それってものすごいモチベーションになりますよね。

三原さん:そうなんです。自分たちで決めたからこそ、責任感も芽生えるし、「お客様にどう喜んでもらおう?」って自然に考えるようになるんですよ。接客だって、僕よりもずっと上手。言葉の壁があっても、お客様への笑顔や心遣いでカバーしてくれるんです。
ケージー:いやあ、本当に素敵なチームビルディングですね。実際、最初の店舗は浅草橋だったんですよね?

三原さん:はい。浅草橋店は、全てが「冒険」でしたね(笑)でもスタッフのみんなが、自分たちでルールを作って動いてくれたからこそ、少しずつお客様が増えていった。店が回り始めた時は、本当に感動しましたよ。
ケージー:任せることの強さを実感された瞬間ですね。
三原さん:本当にそうです。やっぱり人を信じて任せるって、大事なんですよ。
「トラブルも成長の糧」—千歳烏山店で学んだこと

ケージー:浅草橋店が軌道に乗ってから、次に千歳烏山店を引き継いだんですよね?
三原さん:そうなんです。元々は、タイ人のご夫婦が経営していたお店で、奥さんがタイに帰っちゃったんです。小さいお子さんを残して。
ケージー:それは大変すぎます…!
三原さん:店も子供も残された旦那さんが、スタッフを通して僕に「助けてほしい」って連絡してきて。これはもうやるしかないな、と。
ケージー:すごい。決断が早いですね。
三原さん:いや、地下のお店って個人的にはあんまり好きじゃなかったんです。でも「困っている人を放っておけない」という想いが強くて。結局、居抜きでそのまま引き継ぎました。

ケージー:スタッフさんたちはどういう反応だったんですか?オーナーが変わるって、大きな変化ですよね。
三原さん:不安もあったと思います。でも、スタッフたちは状況を理解していて「このままやりたい」という気持ちが強かった。だから、「自分たちで決めて、自分たちでやりなさい」と伝えたんです。
ケージー:また「任せる」ですね。

三原さん:はい。人は信じて任せないと育たないですから。もちろん最初は失敗もありましたけど、そうやって経験を積んでいく中で、強いチームが出来上がっていきました。
ケージー:トラブルすら、成長の種に変える。本当に素晴らしいお話です。
三原さん:おかげさまで千歳烏山店も安定して運営できるようになりました。
「屋台店とゴーストキッチン、そして気づいた“本物”の大切さ」

ケージー:浅草橋、千歳烏山ときて、その後に屋台店やゴーストキッチンも展開されたんですよね?
三原さん:はい。浅草橋から200メートルほど離れた場所に、小さな屋台店を作りました。10席ほどの小さなお店で、屋台料理を気軽に楽しめる場所にしたかったんです。
ケージー:すごく面白いコンセプトですね。
三原さん:さらにコロナ禍で「これはデリバリーだ」と思い、白金高輪にゴーストキッチンも立ち上げました。六本木界隈を配達エリアにして、毎日約30人前を出荷していました。
ケージー:それはすごい規模!
三原さん:でも…1年くらい経った頃には、都内中に「なんちゃってタイ料理」のゴーストレストランが溢れてしまって。フランチャイズでレトルトをパックして出せば、居酒屋さんでも“タイ料理屋”が名乗れるようになってしまったんです。
ケージー:なるほど、競争が一気に激化したんですね。
三原さん:そうなんです。最初は10数店舗だったのが、1年後には100件以上。味は二の次、稼げるかどうかだけが重視された世界になってしまったんです。これはもう勝てないなと思って、ゴーストキッチンは潔く撤退しました。
ケージー:その決断ができるのがすごいです。
三原さん:やっぱり最後は「顔を見て、ちゃんと美味しいものを届ける」のが一番だな、と改めて気づかされました。デリバリーだけで成り立つ商売は、やはり長続きしないと思います。
ケージー:本物で勝負、ですね。
三原さん:そう。だから今も「対面で、ちゃんと美味しい料理を届ける」ことを大切にしています。
スタッフに任せる経営と、信頼が生む組織力

ケージー:三原さんのお話を聞いていると、スタッフへの信頼がものすごく大きいと感じます。
三原さん:はい。私は「任せる経営」を大事にしています。接客も調理も、私自身はプロじゃない。だったら現場のスタッフに全部任せて、彼らが自分たちでルールを決めてやる。これが一番いいんです。
ケージー:確かに、スタッフの自主性が高いと、お店自体が強くなりますよね。
三原さん:うちでは、メニューや店内レイアウト、備品選びまでスタッフに任せています。「あなたたちが決めて、自分たちで店を作るんだ」という気持ちになってもらう。それが一番のモチベーションになります。
ケージー:素晴らしい考え方ですね。

三原さん:加えて、毎月の月次ミーティングでは、売上から材料費、人件費、家賃まで、全てガラス張りで公開しています。「これだけ原価がかかって、これだけ利益が出たよ」とスタッフ全員が知ることで、経営感覚も育つんです。
ケージー:それは本当にすごいです。まさに経営を一緒に担う仲間ですね。
三原さん:そうですね。おかげでスタッフはみんな「自分のお店」という意識を持ってやってくれています。たまに問題児もいますけど(笑)、基本的には長く続くスタッフが多いです。

ケージー:三原さんのお店が地域で愛され続けている理由が、すごくよくわかります。
三原さん:嬉しいですね。結局、料理もサービスも「人」がすべてですから。
三原さんが描くスマイルタイランドの今後

ケージー:三原さん、今後の展望についてお聞かせください。
三原さん:基本的には「スタッフ次第」です。新しいスタッフが集まってきたら、また新しい箱を作ってチャレンジしますし、逆に減ってきたら無理せず小さくまとめる。とにかく、働く人たちが幸せになれる環境を作っていくことが私の役目です。
ケージー:店舗拡大ありきではなく、スタッフありきなんですね。
三原さん:そうです。結局、店は「人」で決まります。スタッフのやる気がある時に新しい挑戦をして、彼らが成長できる環境を作ってあげたい。それが雇用の確保にも繋がりますしね。
ケージー:それは素敵な考え方です。では、最後にエスニック料理が好きな読者や、スマイルタイランドのファンの皆さんへメッセージをお願いします。

三原さん:はい。「タイ料理は楽しむもの」です。 お店によって味付けやスタイルが少しずつ違いますし、テーブルの上の調味料を使って、自分好みにカスタマイズして楽しんでほしいです。辛くしたり、甘くしたり、それぞれの好みで自由に味わってもらえたら嬉しいですね。
ケージー:本当に素晴らしいです。今日はお忙しい中、たくさんお話を聞かせてくださってありがとうございました!三原さん:こちらこそ、ありがとうございました。