タイ料理が日本に浸透する上で、その礎を築いてきた企業があります。それが「株式会社アライドコーポレーション」。スーパーやコンビニで、一度は同社の製品を手に取ったことがあるのではないでしょうか。「タイの台所」シリーズを筆頭に、本場の味を手軽に楽しめる商品を提供し、私たちの食卓を豊かにしてくれています。
今回は、アライドコーポレーションの販売促進部のお三方に、創業から現在に至るまでの挑戦、そして今後の展望について深く掘り下げてお話を伺いました。タイ料理への深い愛情と、市場を切り拓く先見の明に迫ります。
アライドコーポレーションの挑戦——タイ料理を広めた半世紀の歩み
ケージー: 本日はよろしくお願いします。アライドコーポレーションさんは、本当に私たちの日常にタイ料理を普及してくださっている企業さんですよね。まずは、創業のストーリーについてお聞かせいただけますでしょうか?
販売促進部: よろしくお願いします! 弊社は1976年に船舶代理店アライドシッピングコーポレーションとして創業し、タイなどから輸入を開始しました。その後、1987年より株式会社アライドコーポレーションとしてタイ料理食材の輸入販売を開始しています。
タイ料理やベトナム料理は今でこそ日本のマーケットでも受け入れられていますが、事業を開始した当時は認知度がとても低く、ごく限られた方にしか知られていない料理でした。私たちはそんなエスニック料理の「日本における一般化」を目標に、商品開発と品質管理に力を入れながら今日まで歩みを進めてきました。
ケージー: 東南アジア系食材に注力されるようになったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
販売促進部: そのきっかけは、弊社の先代社長である氏家勲氏と、その奥様の昭子氏にあります。1967年、お二人はご結婚と同時に、当時総合商社勤務だった勲氏とともにタイに渡り、2年間在住しました。そこで一生懸命タイ語とタイ料理を学び、帰国後、昭子氏はタイ滞在中に魅せられたタイ料理を日本でも作りたいという思いから、日本在住のポワン・カム・シュミッツ氏のタイ料理教室に通い、1987年よりタイ食材の本格的な輸入とタイ料理の普及活動をスタートしました。
その後も日本とタイを行き来しながら、宮廷料理レストラン「ブサラカム」のチーフシェフ・ブンチュー氏や、バンコクの国立大学・スワンドゥシット大学のアマラポーン教授に10年以上師事し、タイ料理への造詣を深めていきました。
その一方で、タイ食材や調味料の入手には多くの苦労がありました。日本でのタイ料理普及のためには、食材の輸入が不可欠だと感じ、ついに勲氏も総合商社を退職し、お二人でタイ料理食材の輸入販売を事業としてスタートするに至ったんです。
ケージー: ご夫婦でタイへの強い思いがあったからこそ、今の会社の礎が築かれたのですね。感動的なストーリーです。
「タイの台所」ブランド誕生秘話——日本市場を切り拓くローカライズ戦略
ケージー: 船舶代理店からタイ食材の輸入へと大きく舵を切られた際、新たな苦労もあったのではないでしょうか?
販売促進部: 苦労というよりも、大きな転換点がありました。2000年に先代の社長が倒れてしまい、事業は当時営業マンとして働いていた息子の氏家勇祐(現社長)が継ぐことになったんです。
氏家現社長は当時、タイから輸入した商品をそのまま売り場に並べても、読めない異国の文字でなかなか手に取ってもらうことができないと実感していました。そんな時、デパートの催事で直接お客様からご意見を頂戴したことから、やはり日本人に安心して買ってもらうためには、日本語でしっかりと商品パッケージから作り、商品の品質管理にも自信を持って提供する必要があると判断しました。
ケージー: それが今の『タイの台所』ブランドとパッケージの商品名を日本語表記にするきっかけになったのですね。
販売促進部: はい。これが契機となり、2004年にはタイ・バンコクに支社を設立しました。バンコク支店を拠点に、タイの工場からお客様の手に商品が届くまでの一貫したサプライチェーンを構築。これにより、開発力、品質管理、スピードのあらゆる面で日本国内の基準に対応し、日本のエスニック料理市場を広げることができたんです。
バンコク支社にはオフィスや倉庫、店舗勤務含めて現在65名の現地スタッフがおり、先月採用された現地の日本人スタッフと、より円滑な業務を目指しています。現地の食材の調達や品質管理を徹底することで、日本市場に合わせた商品の開発を進めていきました。その結果、今の「タイの台所」ブランドへと繋がっています。
ケージー: なるほど、タイ料理を日本に広く普及させるためには、日本人のインサイトを掴み、徹底したローカライズが必要だったのですね。バンコク支社の設立は、その強い意志の表れだったと。
日本の食卓にタイ料理を届けたヒット商品とこだわり
ケージー: アライドコーポレーションさんの商品で、特に「これが当たった!」というエピソードがあれば教えてください。また、商品開発において特に大切にされているこだわりや方針についてもお聞かせください。
販売促進部: 自社ブランドの商品は現在5カ国で販売されています。「タイの台所」ブランド以外にも、タイ現地の有名ブランドのNB商品も扱っていますが、やはり弊社のブランド「タイの台所」が現在の主力です。特に発売から20年以上の実績がある「タイで食べたシリーズ」は、他社のプライベートブランドも含め、2000年以来約4000万パックを販売しており、最も味に自信があります。
「タイの台所」の商品は、タイ現地の味を目指した開発を行っています。そのため、一般的な日本のメーカーが「タイ風」といって商品化するものとは、ハーブの風味や唐辛子の辛さで一線を画す味の構成となっています。辛すぎると言われることもあれば、「タイの台所なのに辛くない!」とご指摘を受けることもあるので、味の調整は毎回チームで納得いくまで試作を繰り返します。
商品開発は、タイに最も精通している社長の氏家が「原曲」を作り、社員がチームで「曲」にしていくような形です。タイの現地の味と言っても様々なので、最後はブランドの生みの親である氏家が決めています。
ケージー: なるほど、社長の確かな舌と、チームの試行錯誤によって、本場の味が再現されているのですね。
広がるタイ料理市場とアライドコーポレーションが目指す「本物の体験」
ケージー: 日本市場におけるエスニック料理市場の広がりについて、現場の視点からどのように感じていらっしゃいますか?
販売促進部: 日本市場での広がりについては、ファミリーレストランや街のスーパーでタイ料理がメニュー化されてきていますので、かなり一般化されてきた印象を持っています。しかし弊社はまだその段階で満足して終わりにはなりません。「ご家庭に1本ナンプラー」があるところまで目指して、これからも努力を重ねていきたいと考えています。
現在InstagramやFacebookなどのSNSでレシピを中心に情報発信をしているのも、その取り組みの一つです。ぜひフォローしてレシピを見て、「美味しそう」と感じたら実際に作っていただきたいと思っています。
ケージー: 市場の成熟が進む中、貴社ならではの差別化戦略や取り組みがあればご紹介ください。

販売促進部: 難しい課題ですが、変わらず「タイの台所」であり続けることだと考えています。それはつまり「本物のタイの味と体験の提供」です。タイで食べたあの食体験を思い出してもらえるような商品づくりを続けることです。
一方で、進化していくことは消費者とのタッチポイントを活かしたブランド体験の強化です。調理キットや調味料の提供だけでなく、レシピ動画や料理教室の開催、飲食店とのコラボによって、単なる「調味料の販売」ではなく、「タイ料理文化の発信」という立場での価値提供を行っていくことで差別化を図りたいと取り組んでいます。
中華料理店やイタリアンのように、素材や作り方までこだわっていることをもっと伝えるべきだと思います。「美味しいタイ料理、その理由は?」ということで、さらに深くタイ料理を愛してくれる人を増やすよう努力しています。
また、年に1度タイで大きな総合食品展示会があるのですが、そのタイミングで弊社スタッフ数人がチームでタイ研修へ行っています。その際にタイ本場の味を体感し、タイに関する知見を広め、各自の業務に役立てています。
コンビニから地方へ——若い世代へのアプローチと「育成」の役割
ケージー: 無印良品さんの手作りキットもアライドコーポレーションさんが手掛けられているのですね!それは初めて知りました。
販売促進部: そうなんです。当時、副社長が直接無印良品さんと交渉し、商品の企画から味の調整まで、非常にこだわりを持って作り上げました。無印良品さんの店舗は全国どこにでもあるので、タイ料理を身近に手に取ってもらう上で、非常に重要なパートナーだと考えています。
特に若い世代の方々は、スーパーに行かない、あるいはエスニックコーナーがどこにあるか分からない、といった方が多いのが現状です。そういった中で、コンビニのレトルト商品は、若い世代にエスニック料理を「育成」していく上で非常に重要だと考えています。
ケージー: 確かに、コンビニであれば気軽に手に取れますし、初めてのタイ料理体験としても最適ですね。最近ではファミリーマートさんの「ファミマル」ブランドで、マッサマンカレーとグリーンカレーが発売されたと伺いました。
販売促進部: はい、最近発売されたばかりですが、SNSでも「コンビニでこんな本格的なのが食べられるの?」と嬉しい反響をいただいています。若い方々がエスニック料理に触れるきっかけとなり、そこからご自宅でタイ料理を作ってみたり、専門店に足を運んでみたりと、さらに広がりを見せてほしいと願っています。
今年の新商品としては「トムヤムドレッシング」も発売しました。これはサラダのドレッシングとしてだけでなく、揚げ物や鍋のつけダレ、冷やしうどんやパスタにも相性の良い、まるでマヨネーズのように万能に使えるドレッシングです。
「いつでもどこでもトムヤムを感じられる商品、ランチのサラダで手軽にタイを感じられる、そんな商品があったらいいな」という発想から商品化されました。日本のタイレストランで、ランチセットのサラダには普通のドレッシングがかけてあることが多いですが、このドレッシングを使うことによって、「隅々までタイを感じて頂きたいと考えております。
人口減少を乗り越え世界へ——アライドコーポレーションが描く「食」の未来図
ケージー: 最後に、今後の展望や目指す未来についてお聞かせいただけますでしょうか。日本市場だけでなく、海外市場への展開もお考えでしょうか?
販売促進部: 今後の展望としては、日本市場が縮小傾向にある中でも、タイ料理の多様な魅力を活かし、各分野で人気メニューとして定着させることを目指しています。例えば、牛丼分野でタイ料理の食材や調味料を使ってもらうとか。将来的には、どんな外食チェーンやスーパーでも欠かせない存在になるよう取り組んでいます。
日本ではレストランや外食の機会が減る中、家庭でタイ料理を楽しむ文化を広げていくことが、私たちの役割だと考えています。
ケージー: これからエスニック料理に興味を持つ方々や新たな市場に向けて、貴社から届けたいメッセージがあればお願いいたします!
販売促進部: 興味を持っている方にはぜひタイに行って、本場のタイ料理を体験してほしいです。タイから日本に来るタイ人は115万人ですが、日本からタイに行く日本人は100万人と、人数がついに逆転しました。もし、エスニック好きがタイを訪れて本場の味を知った上で、タイの台所の味を「本当にタイで食べた味だ!」と体感して頂けたら、こんなに嬉しいことはありません。
新たな市場開拓は非常に難しいですが、20代といった若い世代はもちろん、30年前にタイに行った人が仮に当時30歳ならば、現在は60歳。その人たちに懐かしいものとして食べてもらえる機会も作っていければと思っています。
ケージー: 創業者の情熱と、現社長の先見の明、そして社員の皆さんのパワフルな実行力で、アライドコーポレーションさんはこれからも日本の、そして世界の食卓を豊かにしていくと強く思いました!本日は貴重なお話をありがとうございました!
販売促進部: ありがとうございました!
あとがき
今回のインタビューでは、アライドコーポレーションさんの多岐にわたる事業展開と、タイ料理への深い情熱をひしひしと感じました。販売促進部の皆さん、本当にありがとうございました!
実は今回のインタビューには、タイにいらっしゃる氏家社長にもオンラインでご参加いただいていました。時間の都合上、直接お話を伺う機会は少なかったのですが、社長の「食」を通じた世界への熱い思いに触れることができました。
次回の来社時には、ぜひ氏家社長ご本人に、アライドコーポレーションの未来について、そして「タイの台所」が描く、食に関する新しい挑戦について、じっくりお話を伺わせていただきたいと思っています!