「日本で本格的なベトナム料理を提供したい」と語るのは、「ベト屋」を運営するベト屋フーズ株式会社 代表取締役会長 武 仁誠さん(以下武さん)。
ハノイ出身の武さんは、東大大学院への進学を機に来日し、VCとしてのキャリアを経た後、「本場のフォーを日本に広める」という想いからベト屋を創業。
今回は、武さんにインタビューを実施。ベト屋のこだわりやさらなる拡大を目指す成長戦略についてお話を伺いました。
来日のきっかけは東大進学
ケージー:色々お聞きしたいことがあるのですが(笑)武さんはベトナムのご出身ですよね?日本に来られたきっかけは何だったんですか?
武さん:はい、私はハノイ出身です。11年ほど前に東京大学大学院進学がきっかけで日本に来て、それ以降は在住しています。
ケージー:そうだったんですね!ベトナムの大学卒業後すぐに東大の大学院に進学されたんですか?
武さん:大学卒業後は2007年にベトナムで起業し、しばらくSNSの立ち上げを行っていました。
ケージー:ベトナムで起業されていたんですね!どのようなSNSだったんですか?
武さん:Facebookに少し似ていたのですが、趣味を軸に横のつながりを作る場所を作っていました。ただ、当時はインターネット広告の市場がまだ整っていなくて、収益化するのが難しかったです。
ケージー:ネット広告業界もまだ発展途上のタイミングで、SNSを作っていたんですね!何年くらいベトナムでスタートアップされていたんですか?
武さん:5年ほどしていました。その後アメリカに2年間行き、MBA(経営学修士)を取得しました。
ケージー:アメリカの大学にも行かれていたんですね!その後日本に来られた流れだと思うのですが、東大に進学されたきっかけは何だったんですか?
武さん:東大の先生に面白い研究内容があるとお誘いを受け、進学しました。当時、日本語は全く話せなかったのですが、漫画が好きで、日本の文化にも興味があったので日本に行くことを決断しました。
VC経験を経て、なぜベトナム料理店を?
ケージー:なるほど!大学院修了後は何のお仕事されていたんですか?
武さん:まずは日本電気に入社し、その後2019~2021はVC(ベンチャーキャピタル)として、ITやメディア関係のスタートアップに投資をする仕事をしていました。
ケージー:ベト屋さんを創業される前の経歴が華々しいです(笑)VCの後はベト屋さんをオープンされたんですよね?その経緯をお伺いしたいです!
武さん:VCとしてスタートアップ企業に投資する中で、「自分も何かやりたい!」と考えていました。ただ、日本でベトナム人として何か新しい産業を立ち上げることはハードルが高く、ベトナムに関連する事業で何かできないかと考えたときに、飲食業界に可能性を感じ、ベト屋の運営会社であるベト屋フーズ株式会社を創業しました。
ケージー:ベトナム料理のどの部分に可能性を感じたんですか?
武さん:「本格的なハノイスタイルのフォーを提供する専門店」がほとんどなかったことに可能性を感じていました。というのも、ハノイのフォーはすごくシンプルに見えますが、実は奥にたくさんの工夫が隠れています。例えば、美味しいフォーを作るには最低でも80Lのスープを煮込まないと味が出ないですし、ベト屋ではスープを煮込む時間を14時間確保し、美味しいフォーを提供するために徹底しています。
ケージー:14時間も煮込まれているんですね!言われてみると、ベトナムに行った時に現地の方々が朝から大鍋でスープをかき混ぜている光景を見ていました。美味しいフォーを提供する裏では時間と手間がかけられているんですね。
武さん:そうです。他の料理を提供しながら、フォーのスープにかける時間を確保できないと考えています。なので私たちはビジネスモデルとして成立させるため、「フォー専門店」に絞り、「どうやってスープを大量に作れる環境を整えるか?」に向き合いました。
ケージー:美味しいフォーのスープを作り上げることが鍵だったんですね!
築地から始まったベト屋—出店戦略とエリア選定の理由
ケージー:1店舗目の築地店はいつオープンされたんですか?また、築地というエリアを選ばれたんですか?
武さん:2021年の6月です。エリアとしては中野や吉祥寺などの西側のエリアも探していたのですが、ちょうどコロナ禍で築地の賃料も下がり、比較的条件が良かったことが大きいな理由です。築地はオフィスと住宅が混在していますし、飲食店が多く集まる激戦区です。そのエリアで上手くいけば、他のエリアでも展開できると考え、築地を1店舗目として決断しました。またこれは個人的な話なのですが、実は私が初めて日本に来た時、築地に泊まったこともあり、エリアへの親しみもありました(笑)
ケージー:武さんご自身も思い出の街だったんですね!オープンがコロナ禍だったと思うのですが、オープン後いかがでしたか?
武さん:コロナ禍だったので、最初の1年は採算が合わず、本当に苦戦しました。ただ、お客様に支えていただき、乗り越え、2店舗目以降もオープンすることが出来ました。
ケージー:ベト屋さんは現在都内に5店舗あると思うのですが、どの順番でオープンされていったんですか?
武さん:2店舗目は本郷三丁目でオープンしました。
ケージー:東大ご出身なので、東大周辺で探されていたんですか?
武さん:いいえ(笑) 築地店と同じくらいの広さでかつ築地からそこまで遠くないエリアで探していました。その中でたまたま駅から近い物件が本郷三丁目にあったので、オープンを決断しました。実際、東大のお客様もたくさんいらっしゃいます。
ケージー:1店舗目の築地もそうですが、武さんのゆかりのある街でオープン出来たことは運命なのかもしれませんね(笑)その後、どの店舗をオープンされたのでしょうか?
武さん:3店舗目が溜池山王、4店舗目が神保町、そして5店舗目が人形町です。
ケージー:ベト屋さんは結構オフィス街に展開されていらっしゃる印象ですが、新店舗をオープンする際どこを重視されているのでしょうか?
武さん:出店エリアはベトナム料理店が少なく、まだ広く認知されていないエリアを選んでいます。
ケージー:競合が少なく、ターゲットが拡張できるエリアを選んでいらっしゃるんですね!競合が少ないエリアではベトナム料理の需要も小さい可能性はないのでしょうか?
武さん:フォーは癖もないですし、辛くもないので、日本に限らず世界中の方々に楽しんでいただけると考えています。実際、築地店のお客様の半分以上の方はベトナム料理やフォーを食べたことがなかったのですが、徐々に支持していただけたので、ベトナム本場の味でも日本人に受け入れられると自信に繋がりました。
ケージー:なるほど!実際に築地店での経験を元に戦略を考えていらっしゃるんですね!現在、ベト屋さんはオフィス街中心に出店されていますが、その狙いはあるのでしょうか?
武さん:オフィス街に出店する場合、オフィスワーカーはランチ時間が限られているため、「提供スピードを上げられるか」がとても大事になります。ベト屋ではスープの仕込みに14時間かけている一方で、店舗での提供は3分程で出来ます。そのため、ランチ需要の高いオフィス街においても、勝負出来ると考えています。
ケージー:ベトナム料理を食べたいというニーズだけではなく、サクッと食べたいというオフィスワーカーのニーズにも応えることができているんですね。
セントラルキッチン稼働で新出店を加速するベト屋の未来展望
ケージー:ベト屋さんの今後の展望について教えてください!
武さん:本格的なベトナム料理をたくさんの人に提供する仕組みを構築するためにも、最近千葉でセントラルキッチンの稼働を開始しました。現在、セントラルキッチンにて、スープなどの仕込みを行い、営業前に各店舗に配送を行っています。セントラルキッチンにてより大量に作成できる体制が整ったので、店舗数を増やし、「本格的なベトナム料理」をもっと多くの方に提供していきたいです!
ケージー:現在はセントラルキッチンで仕込みをされていらっしゃるんですね!新店舗を増やしていくにあたり、現時点でどのような出店スタイルで店舗数を増やしていこうと考えているのですか?
武さん:これまでは全て路面店にて店舗をオープンしてきました。ただ、オフィスビルや商業施設のフードコートへの出店もとても興味があるので、色んなスタイルでチャレンジしていく予定です。ただ、セントラルキッチンからの物流時間や費用の観点もあるので、その部分を計算した上で、出店エリアは決めていきます。
ケージー:ベト屋さんの今後のご展開とても楽しみです!最後にベト屋さんのお客様・読書の方に一言お願いします!
武さん:現時点では5店舗ですが、ここまで来られたのは、本当にお客様のおかげです。最初の頃は、特にコロナの最中で大変な時期もありましたが、そんな時でも多くの方が応援してくださって、それで何とか生き残ることが出来ています。ベト屋は「本物のベトナム料理」にこだわり続けてきたので、納得してくださる常連のお客様が増えたことも、本当に感謝しています。今後も様々なエリアにベト屋を出店していき、ベト屋を通じて、ベトナムと日本の文化が交わるきっかけを作っていきたいと思います!
ケージー:本日はお時間いただき、ありがとうございました!