タイ東北部イサーン地方のソウルフード「ソムタム」。「ソムタムダー」は、そのイサーン料理を世界に広めるべく、ニューヨーク、台北、そしてここ日本にも展開する人気店です。今回は、日本における本店である代々木店長の野原さんと虎ノ門店長の伊藤さんに、ソムタムダーがイサーン料理にかける情熱、そしてその魅力について深くお話を伺いました。
イサーンの味を世界へ——「ソムタムダー」創業の熱い思い

ケージー: 本日はよろしくお願いします!ソムタムダーの日本1号店である代々木店は、いつ頃オープンされたのでしょうか?
野原さん: 2017年9月13日にオープンしました。今年で8年になりますね。
ケージー: 日本以外にも、ニューヨークやベトナムにも出店されていますよね。日本は何番目の海外店舗になるのでしょうか?
伊藤さん: 日本はニューヨーク、ベトナムに次ぐ3店舗目としてオープンし、その後台北にも出店しました。現在、ベトナムの店舗は閉店しておりますので、タイ本国と合わせて3カ国での展開となっています。
ケージー: ソムタムダーは、イサーン料理の火付け役、パイオニアのようなイメージがあります。当初からイサーン料理で世界展開を考えていたのでしょうか?
野原さん: はい、まさにその通りです。もともとオーナーはイサーン出身で、「バンコクには、イサーンの人が本当に美味しいと思えるようなイサーン料理店が少ない」という思いがありました。屋台はたくさんありますが、レストラン形式で清潔感があり、バンコクの若い世代も気軽に楽しめるようなお店がない、と。
伊藤さん: そういった背景もあり、もともと彼らが「世界にイサーン料理を広めたい」という強い思いを持って、バンコクに1店舗目を立ち上げたのが始まりなんです。ですから、日本でイサーン料理ブームを起こすというよりは、イサーンの食を含めた文化全体を世界に広められれば、というビジョンを持ってオープンしたお店なんです。デザイナーもイサーンの方で、内装の飾り付けなどもイサーンのテイストを取り入れています。
ケージー: なるほど、ソムタムダーはイサーン文化を世界に発信する拠点なのですね。
イサーンの「本物の味」を提供——多様なソムタムへのこだわり

ケージー: ソムタムダーといえば、やはり「ソムタム」が看板メニューです。代々木店では何種類のソムタムを提供されているのでしょうか?
野原さん: 現在、代々木店では約9種類のソムタムを提供しています。以前はもっと種類が多かったのですが、今は厳選していますね。
伊藤さん: はい。特に人気なのが、「タムタイ」と「タムプーパラー」です。「タムプーパラー」は、パラーという魚の発酵調味料が入った、イサーンのソムタムを象徴する、よりクセの強いソースを使っています。

ケージー: では、「タムタイ」は一般的なソムタムなのでしょうか?
野原さん: 「タムタイ」は、プーパラーが入っていないソムタムで、甘味と塩気のバランスが良い、マイルドな味わいです。
伊藤さん: 本場のイサーンではプーパラーが入っているのが一般的ですが、初めての日本人のお客様だと好き嫌いが分かれることもありますので、バンコクスタイルといわれる「タムタイ」もご用意しています。最近は、このプーパラー入りのソムタムを頼む日本人のお客様も増えていて、本当にタイ料理が好きなんだなと感じます。プーパラーを注文する方が増えるということは、イサーン料理の「本物の味」が日本でも求められている証拠だと思いますね。
ケージー: 日本のお客様の味覚の変化も感じられているのですね。
世界が注目するイサーン料理——ニューヨークでのミシュラン評価

ケージー: ソムタムダーは海外でも非常に人気があると伺いました。特にニューヨーク店ではミシュランの評価も得られたとか?
野原さん: はい、ニューヨーク店はミシュランガイドの「一つ星」を獲得したこともあり、その後は「ビブグルマン」として掲載されていました。リーズナブルながらも質の高い料理を提供する店として評価されました。
ケージー: ミシュラン「一つ星」と「ビブグルマン」獲得、すごいですね!オープンしてすぐの評価だったのでしょうか?
伊藤さん: そうみたいです。オープン1年目か2年目くらいで評価をいただいたと聞いています。ニューヨークのソムタムダーは、ミシュランの人にも気に入っていただけたのだと思います。
野原さん: オーナーとシェフは年に一度、全店舗の味をチェックするために各地を訪れます。ニューヨーク店でも、シェフとオーナーが直接話して、味を少しずつ調整しているんです。そうすることで、味がブレずに、どこの店舗でも「本物のイサーンの味」を提供できているのだと思います。
スタッフの多様な経験が支える「ソムタムダー」の味

ケージー: 野原さんと伊藤さんは、どのような経緯でソムタムダーにご入社されたのでしょうか?
野原さん: 私はもともと働いていた焼き鳥店がタイのバンコクに出店することになり、その立ち上げメンバーとして2年間タイに住んでいたんです。そこではタイ料理には関わっていなかったのですが、帰国後、タイ料理もやりたいということで、ソムタムダーに入社しました。
伊藤さん: 私は単にタイに住んでいた経験があり、日本に帰国後、コロナ禍で日本で働こうと思った時に、タイ語を活かせる仕事を探していました。日本にはタイ料理店は数多くありますが、「タイから来ているお店、本物の味を提供しているお店」に価値があると思い、ここで働きたいと思って入社を決めました。

ケージー: お二人ともタイでの経験がおありなのですね。タイ語は話せるのですか?
野原さん: 私は日常会話程度ですね。
伊藤さん: 私もまあまあ、といったところです。ですが、店のコックさんたちは皆タイ人ですし、イサーン出身のスタッフが多いです。
ケージー: そうですか。タイ語ができる日本人のスタッフがいるのは、コミュニケーションにおいて大きな強みですね。
伊藤さん: はい、日本語ができるタイ人スタッフはどのタイ料理店にもいますが、タイ語ができる日本人のスタッフはあまりいないので、コミュニケーションがスムーズに取れるのは、強みだと感じています。働きやすいですし、タイの人も言葉が通じるだけでとても喜んでくれるんです。
拡大ではなく「本物の味」の追求——妥協なき店舗運営

ケージー: 今後、ソムタムダーとしてどのような展望をお持ちでしょうか?新たな店舗展開なども考えていらっしゃいますか?
野原さん: 今後、店舗を増やしていきたいという思いはありますが、具体的な計画はまだありません。良い場所があれば、という感じですね。
伊藤さん: そうなんです。ただ、単に店舗を増やすことが目的ではないんです。本物のイサーン料理を提供し、タイの方が食べても「ホッとするね」と言ってもらえるような味を守り続けることが最重要だと考えています。
ケージー: むやみに拡大するのではなく、質を重視されているのですね。
野原さん: はい。ありがたいことに、地方からも出店のオファーをいただくこともありますが、そうなると「誰がそのお店を見るのか」「誰が責任を持つのか」という話になってしまいます。当社の体制として、現時点でそれが難しいと判断すれば、無理に展開することはありません。
伊藤さん: 品質を保つための人材確保も重要です。特にコックさんの確保は最重要事項でして、現地で希望者を探したり、知り合いに紹介してもらったりすることもあります。腕はもちろんのこと、お店との相性も重要なので、ここは一番大切に考えています。イサーン料理への深い愛と、妥協なきこだわりが、ソムタムダーの「本物の味」を支えているのだと思います。
ソムタムダーが誇る人気メニューとイサーン料理の楽しみ方

ケージー: 定番ソムタム以外の人気メニューもぜひ教えてください!
野原さん: おすすめは、「タムプラードゥックフー」です。これはナマズの身をほぐしてサクサクに揚げたものを添えた一品ですが、食感が楽しくて美味しいですよ。ソムタムでは定番の一品です。
伊藤さん: あとは、レッドカレーの下味をつけた「ガイトート」も人気です。これはニューヨーク店でミシュランの評価をいただいた際にも、最も高く評価されたオリジナルメニューなんです。他のタイ料理店ではなかなか食べられない味だと思います。
ケージー: とても美味しそうです!

野原さん: オーナーとシェフが何度も試作を重ねて、納得のいく味になるまでに非常に時間がかかったそうです。妥協を許さない姿勢が、この味を生み出しているのだと思います。
伊藤さん: そして、串焼きの「ムーピン」も人気です、タイでは屋台で朝食としてよく食べられるメニューですが、日本人のお客様にも人気です。
ケージー: ランチのおすすめメニューはありますか?
野原さん: ランチは、ソムタム、ラープ、ガイトート、もち米がセットになった「イサーンスペシャルランチセット」が人気です。もち米と一緒に食べると、本当にイサーンスタイルの美味しさを堪能できます。ソムタムは辛さを選べるので、辛いのが苦手な方でも安心です。
ケージー: 辛さの調整ができるのは嬉しいですね。日本人のお客様にもイサーン料理の本格的な食べ方を伝えたいという思いがあるのでしょうか?
伊藤さん: はい、そうです。日本人の方には「サラダ」として認識されがちなソムタムですが、タイではもち米と一緒におかずのように食べることも多いです。このセットを通して、本格的なイサーンでの食べ方を体験していただき、イサーン料理の奥深さを知っていただきたいです。
ケージー: 野原さんと伊藤さんのイサーン料理への深い愛情と、お客様への細やかな配慮が伝わってきました。本日は貴重なお話をありがとうございました!
野原さん・伊藤さん: ありがとうございました!
