「餃子のニューヨーク」「カオマンガイ16号」…立川発、ジャンル無限の“たるたるジャパン代表”齋藤社長が語る飲食30年の冒険譚

立川や福生を拠点に、「餃子のニューヨーク」「カオマンガイ16号」などユニークな店名と強烈な個性で知られる飲食ブランドを展開する、有限会社たるたるジャパン・齋藤社長。

スノーボード漬けのニート時代を経て26歳で飲食の世界に飛び込み、業態開発・新業態立ち上げに没頭。その後独立し、アジア料理、沖縄料理、焼酎バー、そしてタイ料理など、次々とヒット業態を立ち上げ続けてきた実力者です。

今回のインタビューでは、齋藤さんがなぜ「タイ料理」に惹かれたのか。そして東京と富山の二拠点展開構想まで、笑いと驚きに満ちた“飲食人生”を語っていただきました。

目次

「26歳、ニートから料理人へ」―包丁の持ち方から始まった飲食人生

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん①
有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん①

ケージー:本日はよろしくお願いいたします!さっそくですが、齋藤さんが飲食業界に入られたきっかけについて、まずはお聞かせいただけますか?

齋藤さん:正直に言いますと、私は26歳になるまで、ほとんど働いた経験がなかったんです。いわゆる“ニート”のような状態で、スノーボードに本気で取り組んでいました。大会に出たりもしていて、それなりに情熱を持ってやっていたのですが、ふと周囲を見渡したときに気づいたんです。自分と同じ歳の友人たちは会社で係長になったり、少しずつキャリアを積んでいたりしていて。「あれ、自分はこのままで大丈夫なんだろうか」と、急に不安になったのがきっかけでした。

ケージー:その“気づき”が、人生の転機になったわけですね。そこから飲食業界を選ばれたのは、どういった理由だったんでしょうか?

齋藤さん:もともと料理が好きだったというのが大きかったですね。特別な技術があったわけではないんですが、「食」に対しての興味や、何かをつくる楽しさはずっと持っていて。だったら一度、ちゃんと飲食の世界に飛び込んでみようと思い、際コーポレーションという会社に入社しました。

カオマンガイバザール akariの内観①

ケージー:その会社で本格的に料理の基礎を学ばれたんですね。

齋藤さん:そうなんです。料理学校にも行っていませんでしたから、本当にすべてが新鮮でした。でも、その環境が自分にとってはとても合っていたと思います。その後、会社の中で焼肉、中華、韓国料理、居酒屋など、さまざまな業態の立ち上げを担当させてもらいました。いろんなジャンルにチャレンジできたことが面白くて、「もっとこういうのもやってみたい」と思えるようになったんです。

ケージー:その“なんでもやってみよう精神”が、今の多業態展開にもつながっているんですね。

齋藤さん:はい、まさにその通りです。あのときの経験がなかったら、「一つのジャンルに縛られず、面白いことをいろいろやってみよう」という今の自分のスタンスは生まれていなかったと思います。

アジアンキッチンバー“たるたる”の誕生と、立川への挑戦

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん②
有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん②

ケージー:そこから独立されたのは、何歳くらいのときだったのでしょうか?

齋藤さん:独立したのは29歳のときです。初めて自分のお店を構えたのは東京・福生で、10坪ほどの小さな物件でした。家賃が月6万円で、駅からもちょっと離れていたんですが、当時は本当にお金もなかったので、「もうここしかない!」という感じで、思い切って始めたんです(笑)

ケージー:それが“アジアンキッチンバー たるたる”というお店だったんですね。

齋藤さん:はい、そうなんです。タイ料理はもちろん、ベトナム料理や韓国料理、中華、そして沖縄料理まで、アジア各国の料理を“ごちゃまぜ”で出すスタイルでした。ちょっと変わった構成でしたけど、その“混ぜ具合”が逆にウケたんですよね。ちょうど沖縄料理ブームの直前だったこともあって、沖縄そばやゴーヤチャンプルーなんかが目新しく感じられたのか、予想以上に好評でした。

ケージー:なるほど。それにしても、店名の「たるたる」が、今の会社名にもつながっているというのが面白いですね。

齋藤さん:そうなんですよ。当時は、単純に「たるたるソースって名前の響きが面白いし、覚えやすいから」というくらいのノリでつけたんですけど、それがそのまま社名になってしまいました(笑)まさか将来“有限会社たるたるジャパン”として続いていくとは、正直思っていませんでしたね。

カオマンガイバザール akariの内観②

ケージー:でも、福生でのお店はすごく順調だったんですね。

齋藤さん:はい、ありがたいことに、1店舗目のたるたるに続いて、2軒目の「石川屋」という居酒屋もヒットしまして。勢いに乗って「もう1軒やるか!」という気分になったんですよね。それで、いよいよ立川への進出を決めました。

ケージー:そのとき、立川では最初から「タイ料理でいこう」と決めていたわけではなかったんですか?

齋藤さん:いえ、まったく決まっていなかったです。「石川屋」をそのまま別の場所でもう一店舗やろうか、それとも新しいコンセプトに挑戦しようか、すごく迷いました。物件だけ先に契約してしまって、「さて何をやろうか」と後から考えたくらいなんです(笑)でも最終的に選んだのが、タイ料理に特化した業態、つまり「カオマンガイ」でした

伝説の味との出会い―不法滞在のシェフが残した“カオマンガイの源流”

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さんとの対談様子①
有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さんとの対談様子①

ケージー:立川でのタイ料理専門店「カオマンガイ」が誕生した背景には、ある出会いがあったそうですね。

齋藤さん:はい。福生で飲食をやっていた頃、すごく美味しいタイ料理を出すお店があったんです。小さな店で、タイ人のシェフがワンオペで切り盛りしていたんですけど、もう本当に旨くて。

ケージー:そんなお店が福生にあったとは、意外ですね。

齋藤さん:そうなんですよ。僕は当時「石川屋」で仕込みをする前に、そのお店に寄ってランチでタイ料理を食べるのがルーティンでした。気づけば週5で通うようになってて(笑)。

ケージー:それは相当ハマってたんですね(笑)

齋藤さん:はい。そのシェフに「タイ料理、やってみたいんだよね」って話したら、「じゃあ作ってみる?」ってキッチンに立たせてくれて。実際にその人カオマンガイやガパオを一緒に作りながら、直接教えてもらったんです。それが僕のタイ料理の原点ですね。

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さんとの対談様子②

ケージー:まさに“現場での実践”ですね。お店の味をそのまま身体で覚えていったと。

齋藤さん:そうそう。本で読むだけじゃわからない、火加減とか香りの立ち上がりとか、そういう感覚的な部分を肌で覚えさせてもらいました。ところがその人、実は不法滞在だったらしくて…。

ケージー:えっ、そうだったんですか…?

齋藤さん:はい僕が立川に店を出して、ようやく波に乗ってきた頃に、突然その人が警察に摘発されてしまって。強制送還で、もう二度と会えないことになってしまったんです。

ケージー:それは…ショックでしたね。

齋藤さん:うん、でも、その人に教わった味があったからこそ「カオマンガイ」っていうお店の看板が成り立ってるし、今でもうちの味のベースはそこにある。感謝してもしきれない存在ですね。

ケージー:その方の味が、今もちゃんと息づいてるんですね!

齋藤さん:はい。名前ももう忘れてしまったし、連絡も取れないけど、僕の中では“伝説のシェフ”です。

「なんでもワクワクで決める」―丸の内・大手町・三鷹へ、勢いの多店舗展開

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん③
有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん③

ケージー:立川でカオマンガイのお店をオープンされてから、かなり早い段階で多店舗展開を進められたんですよね?

齋藤さん:そうですね。立川の1号店が好調だったこともあって、「次行こう!」っていう勢いが出ちゃって。そこからはもう怒涛の展開でした(笑)

ケージー:どんな感じで広がっていったんですか?

カオマンガイ 立川南口店の外観

齋藤さん:最初に手がけたのが、大衆居酒屋「横田酒場」。そこから「八王子カオマンガイ」(閉店)、その次が「餃子のニューヨーク」。で、その流れの中で丸の内のリーシング担当の方から「ぜひ出店を」と声をかけてもらって。

ケージー:あの丸の内に…!大きなチャレンジだったんじゃないですか?

齋藤さん:ええ、今考えたらちょっと背伸びだったかもしれないです(笑)でも当時は完全に“ノリ”でしたね。「なんか面白そう」「丸の内ってカッコいいじゃん」って。それが出店理由でした。

ケージー:まさに「ワクワク」で動くスタイルですね(笑)

齋藤さん:ほんとに物件を見るときって、損益分岐点とか周辺人口よりも、「ここで店やったら楽しそうかどうか」が判断基準なんですよ。ワクワクしない場所では、どんなに条件が良くてもやらないです。

ケージー:すごい直感型というか、でもそれが成功の原動力なんですね。

齋藤さん:そうかもしれないですね。例えば「カオマンガイ12号」って店名にしたときも、「ジュディマリの“くじら12号”みたいで語感がいいな」っていうのが理由です(笑)

カオマンガイ12号の外観

ケージー:本当に感性を大切にされてますね。ちなみにその内容、記事にしてしまって大丈夫ですか?

齋藤さん:いいんですいいんです。最近もう「ちゃんとした理由探すの疲れた」って思ってて(笑)だって、そもそも「カオマンガイ」って響きがカッコよくて店名にしただけだし。

ケージー:でも、名前の響きに惹かれて来店するお客さんもいると思います。

齋藤さん:そうなんです。言いたくなる名前って、実はすごく大事だと思ってて。「今どこ?」って聞かれて、「カオマンガイ」って返すと、ちょっと面白いじゃないですか。お店の名前って、それだけでも小さなエンタメになると思うんですよね。

ケージー:確かに、ブランドって“響き”から入ることもありますもんね。

齋藤さん:そう。だから僕、ブランド戦略とかあまり考えてないようで、実はめちゃくちゃ気にしてるんですよ(笑)でも全部、「ワクワクするかどうか」が判断の軸。それがなかったら、そもそも飲食なんてやってられないですからね。

“飽きられない仕掛け”と、汁なしトムヤム麺の未来

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さんとの対談様子③
有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さんとの対談様子③

ケージー:ここまでのお話を伺っていて、齋藤さんのブランドづくりって“勢い”や“ノリ”が入り口になってる印象が強いんですが、長く続くお店って、やっぱりその後の工夫も大事ですよね。

齋藤さん:ほんとそうですね。最初は「名前が面白い」とか「立地がワクワクする」っていう理由でスタートしても、そのままだと必ず“飽き”が来るんですよ。だから、どんなに忙しくても、「お客さんを飽きさせない仕掛け」を定期的に入れないとダメだと思ってます。

ケージー:たとえば、どんなことをされてるんですか?

齋藤さん:一番わかりやすいのは「メニュー開発」ですね。季節限定メニューだったり、「これ、どういう味なんだろう?」って気になるような新作をどんどん出していきます。最近だと「汁なしトムヤム麺」がその代表例かもしれないです。

ケージー:あ、それ気になってました!写真で見て「これパスタ?」って思ったんですよね。

齋藤さん:あれはね、15年前に開発したメニューなんですよ。中華麺を使って、トムヤムクンの味わいを“混ぜそば風”にアレンジした料理で、実はずっとメニューにあったんだけど、そこまでフィーチャーされてこなかった。

ケージー:そうだったんですね!でも、今改めて“推しメニュー”として再注目されてるのはなぜですか?

齋藤さん:やっぱり「王道タイ料理だけじゃない面白さ」も伝えたいって思いがあるんですよね。どうしても、初めてのお客さんってガパオとかグリーンカレーを頼むじゃないですか。でも、それだけじゃタイ料理の魅力は伝えきれない。汁なしトムヤム麺みたいなメニューを通して、「あ、こんな楽しみ方もあるんだ」って知ってもらいたいんです。

ケージー:なるほど、メニューって“冒険への誘い”でもあるんですね。

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん④

齋藤さん:まさにそうですね。常連さんが毎回同じものを頼んでくれるのは嬉しいんだけど、「次は何を食べよう?」ってワクワクしてもらうことも大事だと思ってます。あと、SNSで取り上げられるようなビジュアルや、食べてみたくなるネーミングも大事ですよね。

ケージー:汁なしトムヤム麺、名前もキャッチーですし、見た目も抜群ですしね。

齋藤さん:うん。だからね、次に力を入れていきたいのは「食べたことのないけど、絶対に美味い一品」みたいなメニューたち。王道じゃないけど、食べたらファンになってくれるようなやつを、もっと前面に出していこうと思ってます。

ケージー:まさに“飽きられないための仕掛け”ですね。

齋藤さん:うちのお店に通ってくれてるお客さんには、「あれ、また面白いの始まってる」って思ってもらえるような存在でありたいですね。飽きたら来なくなる。それだけは絶対に避けたいんですよ。

次なる舞台は富山へ—家族、地域、そしてスタッフを想う新構想

有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん⑤
有限会社たるたるジャパン代表・齋藤さん⑤

ケージー:齋藤さんのお話って、常に“次の挑戦”にワクワクしている姿勢が伝わってきます。最近は、富山での新展開も準備されているそうですね?

齋藤さん:そうなんです。富山は僕の地元なんですよ。生まれ育ちは富山で、実家には今も母がひとりで暮らしています。去年父が亡くなって、さすがに82歳の母を一人にしておくのは心配で……。

ケージー:なるほど、それで富山への展開を考えられたんですね。

齋藤さん:はい。単に実家に顔を出すだけじゃなくて、どうせなら仕事も絡めて、定期的に通えるようにしようと。だったら、富山でお店をやってしまえばいいんじゃないかって思ったんですよ。で、今はすでに物件も2つほど内見を進めていて、良ければ即決したいくらいの気持ちです。

ケージー:展開されるのは、やはりタイ料理のお店になる予定ですか?

齋藤さん:そうです。タイ料理は、これから地方にもっと広がる可能性があると感じています。都内や首都圏は競争が激しいけれど、地方にはまだまだ余白があるし、むしろ面白い勝負ができる気がするんですよね。

ケージー:実際に、福生でもロードサイド型の店舗で成功されてますもんね。

齋藤さん:そうなんです。福生でカオマンガイ16号を始めたことで、“タイ料理はロードサイドでもいける”って確信が持てたんですよ。だから、富山みたいな車社会でも、家族で食べに来てくれるようなお店をつくれば、しっかり根付くと思ってます。

ケージー:富山では、5〜6店舗の展開も視野に入れているとか?

齋藤さん:はい、欲張りすぎかもしれませんが(笑)せっかくやるなら、ただの1店舗だけで終わらせず、地域に根ざしたブランドを育てていきたいなと思ってます。実家も寮にして、母には“寮母さん”として関わってもらったりね。母の元気維持にもなればいいなと。

ケージー:素敵ですね……事業だけでなく、家族やスタッフにも優しい構想です。

齋藤さん:ありがたいことに、うちで働いてくれてるスタッフの中にも、「富山で働いてみたい」って言ってくれてる人がいるんですよ。タイ人のスタッフも、「自然があって、静かなところがいい」って。東京に疲れている人も多いので、富山が“新しい暮らし方の選択肢”になると嬉しいですね。

ケージー:東京と富山を行き来しながら、地域をまたいだ展開をされるわけですね。

齋藤さん:そうなったら理想ですね。「都市型の飲食」と「地方型の飲食」、それぞれの良さを活かしながら、もっと自由に、もっと面白く広げていけたらと思ってます。それが僕自身の“ワクワク”につながりますから。

ケージー:ワクワクを軸にした飲食展開、本当にかっこいいです!今日はありがとうございました!

エスニックマガジン
カオマンガイ12号のランチ訪問記!調布のリゾート感満載☆大人気タイ料理店! | エスニックマガジン 東京都調布市にある「カオマンガイ12号」にランチで伺いました。ランチ時には行列必至の超人気タイ料理店。メニューやアクセスなど詳しく記事内で解説しています!
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