「お客様にとって、ただの飲食店ではなく、“帰ってきたくなる場所”でありたい」と語るのはソイ六本木の創業者・ダイさん。
広告業界と飲食業界を二足のわらじで店舗を運営しながら、試行錯誤を重ね、六本木に本格タイ料理店ソイ六本木をオープン。単なる飲食店ではなく、訪れる人々が気軽に集まり、会話を楽しめる“スナックのような空間”を目指しています。
今回は創業者のダイさんにインタビューを実施。飲食業界へ飛び込んだ背景、タイ料理との出会い、そして ソイ六本木 に込めた想いについて、お話を伺いました。
広告業界から飲食へ—転身のきっかけとは?
ケージー:ダイさんは、もともと広告業界でお仕事をされていたんですよね?
ダイさん:そうなんです。最初の仕事は広告業界でした。今も広告の仕事は続けていますが、映画や演劇、歌舞伎といったエンターテインメント業界の広告を担当していましたね。
ケージー:すごく面白そうですね!でも、その仕事を続けていく中で、何か考えが変わったきっかけがあったのでしょうか?
ダイさん:そうですね。昼も夜もなく必死に働いていて、毎日寝る時間もほとんどないくらいだったのですが、あるときふと「この仕事は本当に必要なものなのか?」と考えるようになったんです。
ケージー:なるほど。どのようなタイミングで、そのように思うようになったのですか?
ダイさん:30歳くらいのときですね。それまでがむしゃらに働いてきましたが、「自分の仕事は本当に誰かの役に立っているのだろうか?」と疑問を持ち始めました。それで、「人の役に立つ仕事とは何だろう?」と考えるようになったんです。その時にライフラインという答えに行きつきました。電気やガス、水道といった、人が生きる上で絶対に必要なものです。でも、それらの事業を始めるには資金も知識も圧倒的に足りなかったんですよね。だから、何か自分ができる範囲で、人の生活に役立つものはないかと考えていった結果、飲食なら手が届くかもしれないと思いました。
ケージー:なるほど、食べることが好きというのも大きな要因だったんですね。それで、最初にスープカレーを選ばれたんですか?
スープカレー屋の失敗—学んだ「ビジネスの本質」
ダイさん:そうです。カレーが好きで、その中でも当時ハマっていたスープカレーをやろうと決めました。今ソイ六本木があるこの場所も、実は最初はスープカレーをやるために借りたんです。もともとラーメン屋だった場所を居抜きで借りて、スープカレーを出し始めたんですが、全然売れなかったんですよ。スープカレー自体の認知度が低かったこともありますし、サービスやコストパフォーマンスの面でも課題があったんだと思います。今振り返ると、時代が早すぎたのかもしれませんね。
ケージー:なるほど。ビジネスってタイミングも重要ですよね。でも、それだけではなく、他にも要因があったんでしょうか?
ダイさん:そうですね。一番の問題は、僕自身が「自分がやりたいこと」を優先してしまっていたことだと思います。ビジネスって結局、消費者のニーズがあって、それに対してサプライヤーがどう応えるかというものですよね。でも、多くの中小企業の社長って、「俺は車が好きだから車屋をやる」「俺は○○が好きだからこれをやる」といった、自分のやりたいことが先行してしまうことが多いんですよね。
ケージー:確かに、自己満足になってしまうとビジネスはうまくいかないですよね。
ダイさん:そうなんですよ。飲食業に限らず、ビジネス全般に言えることですが、「お客様が求めるものを提供する」という視点が欠けていたんだと思います。スープカレーを出していたときは、理想の味を追求することに夢中になっていましたが、そもそもスープカレーを求める人が少ない時代に、それを貫くことが正解だったのかどうか考えるべきでしたね。
ケージー:なるほど。「自分の理想」と「市場のニーズ」が必ずしも一致するとは限らないですよね。
ダイさん:そうなんです。たとえば、スープカレーって本来はゴロゴロした野菜がたくさん入っているのが特徴ですが、それをもっと洗練されたスタイルにしたり、地鶏を使って高級感を出したりしたんですよ。でも、結局それは「僕の憧れ」であって、消費者が求めていたものではなかったということですね。
ケージー:提供する側の理想と、実際にお客様が求めるものにギャップがあったんですね。
ダイさん:そうなんです。ビジネスの本質は、消費者のニーズに対して、自分がどれだけ適切なサービスを提供できるか、つまり「ホスピタリティ」なんですよね。商品や料理はあくまでそのツールに過ぎないんです。
ケージー:確かに。外食するって単なる栄養補給じゃなくて、料理に+αがあるかですもんね。
ダイさん:そうなんです。こういうことに気づけたのは、スープカレー屋を潰した後、かなり時間が経ってからでした。当時はまだ理解できていなかったんですよね。でも、店を潰してから、飲食店を経営している友人やフードコーディネーターの知人と話しているうちに、「本当に必要とされているものは何か」を改めて考えるようになりました。
フードトラックでの出会い—タイ料理との運命的な関係
その中で、たまたま昔からの友人が「フードトラックでタイ料理をやってるんだよね!」と声をかけてくれて、そこで初めてタイ料理と向き合うことになったんです。
ケージー:そこで初めてタイ料理を食べられたんですね!最初食べられたのはどのタイ料理だったんですか?
ダイさん:ガパオライスを食べましたね!当時、知り合いの女性がフードトラックをやっていたんですが、1人か2人で運営していて、かなり大変そうだったんです。そしてあるとき、僕の方から「一緒にタイ料理やらない?」と誘ったんですよね。
でも、ただのフードトラックを続けるのではなく、ちゃんと店舗を持ちたいとも考えていました。それで、ちょうどその頃、グローバルダイニングが運営する「モンスーンカフェ」で働いていた若い料理人と出会ったんです。
ケージー:モンスーンカフェって、エスニック料理を提供している有名店ですよね?そこにいた料理人さんは、やっぱりタイ料理が得意だったんですか?
ダイさん:そうなんです。彼はモンスーンカフェのメインの料理人の一人で、本気でタイ料理をやりたいと思っていました。でも、「チェーン店の規定に縛られるのが嫌だ」と言っていて、本場の味を忠実に再現できる環境で働きたかったみたいです。だから、「じゃあ、一緒にやろうよ」という話になりました。ただ、彼も「なんちゃってタイ料理はやりたくない」と言っていたので、やるからには本格的な味を目指そうと決めました。
ケージー:なるほど。日本のタイ料理店って、やっぱり日本人向けにアレンジされていることが多いですもんね。でも、彼は本物のタイ料理をやりたいという強い思いを持っていたんですね。
ダイさん:そうなんですよ。例えば、モンスーンカフェではガパオライスを出すときに、スタッフが目の前でぐちゃぐちゃに混ぜて提供するのが名物だったらしいんですが、彼に言わせると「そんなこと、本場ではやらない」って(笑)。彼は本気でローカルなタイ料理をやりたかったんです。
ケージー:確かに、日本のエスニック料理って、現地のものとは少し違うことが多いですよね。特に大衆向けのチェーン店では、食べやすさを重視している感じがします。
ダイさん:そうなんです。だから、彼と一緒に本格的なタイ料理をやろうということで、2年限定で一緒に働くという約束でスタートしました。彼は2年で独立して、今は「さいとう食堂」というタイ料理店をやっています。
ケージー:あ、さいとう食堂!知ってますよ。金町にあるタイ料理店ですよね。彼はもともとそちらにいたんですね。
ダイさん:そうなんです。彼がいなくなってからは、新しいスタッフを育てながらやっていたんですが、ここからが大変で……暗黒の5年間が続きました。
暗黒の5年間—六本木での試行錯誤と成長

ケージー:暗黒の5年間!?何があったんですか?
ダイさん:とにかく売上が伸びなくて、決算を出すたびに赤字続きでした。売上がトントンというか、もう「なんとかやっていけるレベル」で、利益が出るどころか「どうにか店を続けるのがやっと」という感じでしたね。
ケージー:飲食店って、最初の数年が大変だとは聞きますが、それが5年間も続いたんですね……。
ダイさん:そうなんです。その頃はもう、毎日「なんでやってるんだろう」と思っていました(笑)。でも、あるとき新しくスタッフとして入ってくれた男性がいて、彼が店を変えてくれたんです。彼は元々チェンマイのホテルで働いていたプロフェッショナルな人で、サービスも料理もめちゃくちゃしっかりしていました。
ケージー:それは大きな変化ですね!やっぱり、良い人材が入るとお店の雰囲気も変わるんですね。
ダイさん:本当にそうですね。彼が入ってからは、お店の雰囲気も良くなり、リピーターも増えました。それでもまだ大変な時期は続いていたんですが、そこに今の妻であるアキが入ってきたことで、さらに店が活気づきました。
ケージー:なるほど!奥様が加わってから、お店の流れが変わったんですね。
ダイさん:そうです。最初は彼女も特に仕事を探していたわけじゃなく、ただ「家で暇を持て余していた」という感じだったんですが、ある日お店のスタッフが急に辞めることになって、「ちょっと手伝ってみる?」と軽い気持ちで入ってもらったんです。最初の半年は慣れなくて苦労していたようですが、そこからはどんどんお店を仕切るようになっていきました。
ケージー:そういう流れだったんですね。奥様の影響で、店の雰囲気がさらに良くなったわけですね。
ダイさん:そうですね。彼女の存在は本当に大きかったです。それからはお店の売上も安定し、今では常連さんが増えて、いい形で運営できるようになっています。
目指すのは「六本木のスナック」—お店の未来像
ケージー:今後はどういうお店にしていく予定なんですか?
ダイさん:今後は無理に2店舗目、3店舗目を出すつもりはなくて、流れのままに任せていきたいなと考えています。ただ、ここに関わる人が楽しく働けて、お客さんがハッピーに過ごせる場所でありたいと思ってますね!
ケージー:お店の方向性としては、ずっとこのスタイルを貫いていく感じですか?
ダイさん:そうですね。実は、うちって常連さんから「スナック」って呼ばれてるんですよ。料理を食べに来るというよりも、スタッフや他のお客さんとの会話を楽しみに来る場所。だから、タイ料理屋というよりは、六本木のスナック的な存在になれたらいいなと思ってますね。
一般的な飲食店のようにマニュアルで統一された運営ではなく、一人ひとりの個性を活かした「属人的な店舗経営」を大切にしています。世の中の流れは、どこでも均一なクオリティを提供できる仕組みづくりに向かっていますが、うちはその逆。スタッフそれぞれの魅力やスタイルがお店の雰囲気やサービスに反映されることで、唯一無二の空間が生まれると考えています。
だからこそ、訪れるお客様も「この人に会いに来た」「この空間で過ごしたい」と思ってくれる。そんな、人の温かみが感じられるお店であり続けたいと思っています。
ケージー:素敵なコンセプトですね。今日は本当に貴重なお話をありがとうございました!
ダイさん:こちらこそ、ありがとうございました!
インタビュアーから一言
ソイ六本木は、ただのタイ料理店ではなく、人と人がつながる“スナック”のような温かい空間でした。
創業者・ダイさんの話からは、飲食業を大変な仕事ではなく、楽しみながら続ける場として捉えていることが伝わり、その姿勢が店の心地よい雰囲気につながっていると感じました!



スタッフの方の温かいアットホームな雰囲気を感じながら食べるタイ料理が最高に美味しくて、また帰ってきたくなるお店様だなと思いました!
実際に店舗を訪れた際の様子や料理の詳細については、別記事で紹介しているので、ぜひそちらもご覧ください!
