東京を拠点に、カンボジアのビール「アンコールビール」を日本へ届けているKJP株式会社の中嶋さん。研究者としての本業と並行しながらも、10年以上にわたりカンボジアとの深い縁を育んできました。
「必要としてくださる方がいるからこそ続ける」。そんな思いで取り組むアンコールビールの輸入ビジネスの裏には、カンボジアを愛し続ける中嶋さんの強い覚悟がありました。
本記事では、KJP取締役の中嶋さんがアンコールビールと出会ったきっかけや今後の展望、そしてカンボジアとの関わりに込められた思いを伺いました。
偶然の出会いから始まったカンボジアとの縁

ケージー: 今日はよろしくお願いします。まずは、カンボジアとの出会いからお聞きしてもいいですか?
中嶋さん: はい。僕がカンボジアに関わるようになったのは、2011年から2012年ごろのことです。当時、今のKJP株式会社の代表である伊佐リスレンと、ある仕事の場で偶然知り合ったんです。お互い同じ業界の別会社だったんですが、なぜか意気投合して、飲みに行くような仲になりました。
ケージー: そこからビジネスにつながるんですね。
中嶋さん: そうなんです。彼が「カンボジアのことをもっと日本に伝えたい」と言い出して。だけど、当時の日本にはカンボジアの物産や飲食文化って、ほとんど知られていなかったんですよ。だったらフェスをやってみよう、という話になって。僕も巻き込まれる形で2014〜2015年頃に「カンボジアフェスティバル」の立ち上げに参加しました。

ケージー: カンボジアフェス、今ではすっかり都内の定番イベントですよね。
中嶋さん: はい。でも最初は本当に手探りでしたよ。2015年、代々木公園のけやき並木で小さなステージを用意して、カンボジアの料理や伝統舞踊を披露したり。
ケージー: 初回でどのくらいの人が来たんですか?
中嶋さん: それでも1万人は来てくれたと思います。驚きました。「カンボジアって、こんなに興味を持ってもらえるんだ」と。イベントとしての手応えもあって、「これは続けたい」と思ったのが大きかったですね。
ケージー: そこから、アンコールビールにつながっていくんですね。
中嶋さん: ええ。フェスをやってみてわかったのは、「カンボジアを紹介したい」と言っても、実際に“売るもの”があまりにも少なかったこと。カンボジア料理店も少ない、ビールもない……。じゃあ自分たちで持ち込もう、と。2015年9月に、KJP株式会社を立ち上げたのが、その第一歩でした。
「売るものがない」から引き寄せられたアンコールビールとの出会い

ケージー: 法人設立後は、どのような活動をしていたのですか?
中嶋さん: 法人設立後はまず、お酒の輸入ライセンスを取得し、カンボジアのメーカーと交渉を始めました。
ケージー: 最初に扱ったのは、アンコールビールではなかったんですよね?
中嶋さん: はい。2016年、最初に輸入したのはプノンペンビールという銘柄です。これも当時のカンボジアでは有名だったんですが、現在はもう製造が殆ど無いようです。その後、現地の人も日本の人も一番知っている「アンコールビール」を輸入することになりました。

ケージー: プノンペンビール初めて聞きました!その後、輸入しているアンコールビールの輸入もハードルはあったんですか?
中嶋さん: はい。当時は現地の需要が多すぎて、メーカーが輸出対応できない状況だったんです。僕らがいくら交渉しても「海外には出せません」と。でも2016年の輸入実績を積み重ねて、2017年にようやく「まとまったロットで輸入できます」という交渉にこぎつけ、正規輸入がスタートしました。
ケージー: まさにフェスがきっかけで「必要なもの」が明確になり、それを自分たちで動かして形にしたわけですね。
中嶋さん: そうですね。カンボジアという国を日本に伝えたいという気持ちが、自然と「アンコールビールを届けたい」という形に結実していったんだと思います。
「カンボジア料理には、カンボジアのビールを」—アンコールビールの役割

ケージー: 実際に輸入が始まって、飲食店やお客様の反応はいかがでしたか?
中嶋さん: とてもシンプルなんですが、「やっぱり、その国の料理を食べるなら、その国のビールだよね」という声が本当に多いです。カンボジア料理店の方々からも「アンコールビールがないと困る」と言われます。
ケージー: 確かに、それだけで料理の世界観がぐっと深まりますよね。
中嶋さん: はい。ただ、カンボジア料理店自体が日本にまだ10店舗あるかどうかという状況なので、商売としては非常にニッチなんです。でも逆に、小規模事業者である自分だからこそ、この役割を担えているのかなと。
中嶋さん: 大手企業であれば「採算が合わないからやらない」と判断されてしまうような規模感でも、僕たちのような小回りの利く事業者なら、“届けるべき人に届ける”という思いを優先して動けるんですよね。実際に「このビールがないと困る」というお店も増えていて、それが続ける原動力になっています。
ケージー: カンボジアの文化や記憶をつなぐ、まさに“架け橋”のような存在ですね。
中嶋さん: そう言っていただけると嬉しいです。アンコールビールを飲むと「カンボジア旅行を思い出す」と言ってくださる方も多くて、味そのものが旅の記憶を呼び起こすツールになっている。このビールには、そうした“国を伝える力”があると思っています。
辞めたら終わり—だから続ける、ニッチなビール輸入の覚悟

ケージー: カンボジア料理店は全国でもまだ数えるほどだと思うのですが、そのなかでアンコールビールを輸入し続けることの意味について再度お伺いしたいです。
中嶋さん: 僕が辞めたら日本からアンコールビールは無くなってしまうのではないか、とも思っています。誰かが代わりに始めるような規模ではないし、大手が参入するには市場が小さすぎる。だからこそ、「自分がやらなきゃ」という使命感があります。
ケージー: ビジネスとしての合理性だけでは語れない領域ですね。
中嶋さん: はい。継続する覚悟がないとできない仕事だと思っています。アンコールビールを日本に届け続けることで、カンボジア料理店の存在価値が高まり、カンボジアという国そのものへの関心も深まる。そう信じてやっています。

ケージー: 実際、イベントなどでも手応えを感じますか?
中嶋さん: 感じますね。特にカンボジアフェスティバルでは「アンコールビールが飲めるのを楽しみに来ました」と声をかけられることが多くて。思い出や感情に結びついている飲み物だからこそ、続ける意義があるんだなと実感します。
ケージー: まさに“なくなったら困る”存在になっているんですね。
中嶋さん: ええ。ニッチだけど必要とされている。その声に支えられてここまで来ました。そしてこれからも、その声を裏切らないように、丁寧に続けていきたいと思っています。
アンコールビールがつなぐ記憶と未来とは?

ケージー: 今後、アンコールビールを日本でどう展開していきたいですか?
中嶋さん: まずは「飲みたい方が、ちゃんと飲める」状態をつくりたいですね。だから、もし「近くで買えないな」と思ったら、お店に「アンコールビールありますか?」って聞いてほしい。それが僕にとっても一番の後押しになります。
ケージー: 飲食店や小売店の理解も大事ですよね。
中嶋さん: そうなんです。知名度がないと、棚に置いても売れない。だけど、誰かが「置いてほしい」と言ってくれたら変わる可能性がある。そうやって地道に広がっていくのが、このビールのリアルな道のりです。
ケージー: “本当に好きな人がいる”からこそ続ける価値があると。
中嶋さん: そう。僕にとってはカンボジアの文化そのものに触れる入口として、アンコールビールがある。将来的には、もっと日本の人がカンボジアという国を知ってくれて、料理も文化も、そして人も愛してくれたら嬉しいです。
ケージー: 最後に、アンコールビールを愛する人、またカンボジアが好きな人に一言お願いします!中嶋さん: カンボジアって本当に人があたたかくて、自然も文化も魅力にあふれている国です。まだまだ知られていない魅力がたくさんあるからこそ、アンコールビールがその“きっかけ”になってくれたら嬉しい。1本のビールが、旅の記憶を呼び覚まし、新しい出会いを生むこともある。そんな存在であり続けたいですね。