新宿の老舗カンボジア料理店・アンコールワット!40年以上多くのファンに愛されるお店の魅力とは?

「移転しても、同じお店をすぐに再現することはできません。お店って、生き物のようなものなんですよ」と語るのは、カンボジア料理店「アンコールワット」のオーナー・呉さん。

1982年に創業し、40年以上の歴史を持つアンコールワットは、代々木エリアで移転を繰り返しながらも、多くのファンに愛され続けてきました。現在の店舗は3店舗目となり、新たな環境での挑戦が続いています。

今回は、オーナーの呉さんにインタビューを行い、創業のきっかけから、震災を経て二代目としてお店を継いだ背景、そして新店舗にかける思いについてお話を伺いました。

目次

アンコールワットの創業ストーリー

アンコールワットの店長・呉さん
アンコールワットの店長・呉さん①

ケージー:アンコールワットさんはいつ頃創業されたんですか?

呉さん:1982年に創業しましたね。

ケージー:めちゃくちゃ長い歴史を持ってるんですね!最初はどういう経緯でお店をオープンされたんですか?

呉さん:最初に日本に来たのは、うちの家族なんですよ。両親が中心になって、家族みんなで1981年に来日しました。それで、翌年の1982年にお店をオープンしたんです。当時、両親はまだ日本語がほとんど話せなくて、僕もまだ小学校4年生か5年生くらいの頃でした。家族は7人いるんですけど、みんなでお店を手伝いながらやってた感じですね。今の店舗は3店舗目になります。これまで何回か移転してて、最初の店舗は代々木一丁目でやってました。最初にオープンしたお店は15坪くらいの広さで、カウンター席が10席くらいの小さな店舗でした。そこからお客さんに支えられながら、少しずつお店を大きくして、今に至るって感じです。

ケージー:そうだったんですね!今新宿に移転されたお店が3店舗目なんですね!代々木にあったアンコールワットさんに2年前くらいに行ったことがあるんですけど、2店舗目はどういう経緯であそこになったんですか?

呉さん:そうですね、あの店舗は最初居抜きで入ったんですよ。もともとは「レッツ」というカフェだったんです。だから、ボックス席があったり、ちょっとしたミーティングができるような雰囲気で、昭和レトロな感じのお店だったんですよね。

ケージー:前はカフェだったんですね。

呉さん:最初の内装はすごくシンプルで、壁も真っ白でした。特に装飾もなく、シンプルなお店でした。でも、5年ほど経つと少しずつ古くなり、そこから改装を始めたんです。最初は骨董品やカンボジアらしい装飾もほとんどなく、本当にシンプルな空間でした。でも、少しずつものが増えていって、気づけば今の雰囲気になりまして。こうして37年かけて、改装や装飾の追加を繰り返しながら、今のスタイルが出来上がっていきました。

二代目としての歩みと東日本大震災の影響

新宿に移転前のアンコールワットの外観
新宿に移転前のアンコールワットの外観

ケージー:そこから実際に呉さんがお店を継ぐことになったのはいつ頃なんですか?

呉さん:お店を継いだのは、東日本大震災の後でした。放射能の影響で街の雰囲気が一変し、お客さんもスタッフもどんどん減って、8人いたスタッフが最後は2人になったんですよ。経営が厳しく、閉店も考えましたが、常連さんの応援が大きな支えでした。SNSで「閉店するかも」と話題になると、「そんなわけない!」と励ましてくれる声がたくさんあって、それが原動力になりました。そこから父の負担を減らし、自分が店を引き継ぐことなりまして、メニューや運営を見直しながら、少しずつ今の形にしていきました。

ケージー:東日本大震災の影響でお父様からお店を引き継がれたんですね!そこから今の3店舗にいつ頃移転されたんですか?

呉さん:元々はメニューを少し変えたり、やり方を調整しながら続けていたんですが、大きなきっかけは6年前にビルの老朽化が進んできたことでした。オーナーから「建て替えたいので一旦退去してほしい」と言われ、そこから新しい物件を探し始めたんです。

50席以上の物件探しの苦悩と、新店舗との出会い

新宿に移転前のアンコールワットの内観
新宿に移転前のアンコールワットの内観

ケージー:そういう経緯で移転しようっていう話になったんですね。すぐに移転先は見つかったのでしょうか?

呉さん:なかなか見つかりませんでした。もともとのビルは地下1階と地上5階まであって、広さは十分だったのですが、建物が古くてエレベーターもなかったんですよ。上の階は特に面積が狭く、徐々に他のテナントも退去していった状況でした。うちの店は70席ほどあったので、移転先も少なくとも50席は確保したかったのですが、そうなると条件に合う物件がなかなかなくて。

ケージー:なかなか席数が50席以上ある店舗を新宿・代々木周辺で見つけるのって難しいですもんね。そこから現在の物件とはどういう経緯で出会ったのでしょうか?

呉さん:以前からこの場所を知っていて、昔は質屋が入っていたんです。2023年の2月に来てみたらシャッターが閉まっていて、調べるとちょうど閉店していることがわかりました。それでオーナーに直接連絡を取って、契約に進みました。

ケージー:タイミングが良かったんですね!移転後の内装はどのように進めていきましたか?

呉さん:審査が通った後、営業しながら改装を進めました。もともとの内装がそこまでしっかりしていたわけではなかったので、厨房は新しく作り直しましたが、客席やドリンクカウンター、レジ周りはできるだけ活かしつつ手を加えていきました。

カンボジア料理の歴史と、新しい店舗の未来

新宿に移転後のアンコールワットの内観①
新宿に移転後のアンコールワットの内観①

ケージー:以前のお店と今のお店、雰囲気がかなり違いますよね。

呉さん:そうですね。前のお店は、37年かけて少しずつ積み上げてきた空間でした。装飾品もお客さんからいただいたものが多かったし、「こういうのがあったらいいね」と言われたものを少しずつ足していった結果、あの雰囲気ができあがったんです!

新宿に移転後のアンコールワットの内観②
新宿に移転後のアンコールワットの内観②

ケージー:じゃあ、自然と作られていった空間なんですね。

呉さん:そうなんです。だから、移転したからといってすぐに同じものを再現できるわけではなくて、時間が必要なんですよ。お店は単なるコピーじゃなくて、生き物のようなものなので。

ケージー:確かに、新しい店舗はまたこれから時間をかけて育っていく感じですね。

新宿に移転後のアンコールワットの内観③
新宿に移転後のアンコールワットの内観③

呉さん:今はまだシンプルな空間ですが、これからどう変わっていくかはわからないですね。ただ、急に大きく変えようとは思っていなくて、せっかく綺麗な状態でスタートしたので、その良さは大切にしたいなと思っています。

ケージー:店内に飾られているアイテムも、以前とは少し違いますね!

呉さん:そうですね。以前の装飾品をここに持ってこようと思ったんですが、雰囲気が合わなくて。試しに飾ってみたんですけど、全然しっくりこなかったんです。だから、今あるものは、ほとんど自分の部屋にあったものなんですよ。

ケージー:例えば、この銀食器もそうですか?

呉さん:これはカンボジアの名産品なんですよ。王宮やお坊さんの儀式で使われる、職人が手作業で作ったものです。カンボジアには、古くから文明が発展していて、ものづくりの技術も高いんですよね。

ケージー:カンボジアの歴史や文化への思い入れが伝わってきますね。

呉さん:僕自身、華僑の三世なんですが、やっぱりカンボジアという国は特別な存在です。内戦の影響で発展が遅れた部分もありますが、本来は素晴らしい文明があって、教養のある人が多い国なんです。アンコールワットも、あの時代にあれだけの建築技術があったってすごいことですよね。

シェムリアップにあるアンコールワットの外観
シェムリアップにあるアンコールワットの外観

ケージー:日本でいうと鎌倉時代ですよね。

呉さん:そうです。建築技術も文化も、本当にレベルが高いんです。その魅力を、新しい店舗でも少しずつ伝えていけたらと思っています。

お店の雰囲気と共に進化してきたカンボジア料理

アンコールワットのクイティウセット
アンコールワットのクイティウセット

ケージー:カンボジア料理って、日本ではまだ馴染みが薄いですが、その中でどう工夫されてきたんでしょうか?

呉さん:うちの料理は、もともとは本場の味そのままだったんです。でも、開店当初は日本ではカンボジア料理を知っている人がほとんどいなくて、メディアに取り上げられても、一時的な話題になっただけでした。

ケージー:最初はお客さんの反応も厳しかったですか?

呉さん:そうですね。ニンニクの強さや、魚醤(ナンプラー)の風味が日本の食文化と合わなくて、最初は敬遠されることもありました。

ケージー:そこで、味を調整することに?

呉さん:はい。お客さんの声を聞きながら、少しずつ改良していきました。日本の食材を使って、カンボジアの味を再現することを意識したんです。結果的に、それが今の人気メニューにつながっています。

ケージー:今のメニューも、そうやって残ってきたものなんですね。

呉さん:そうです。40年以上の間に、100種類以上のメニューを試して、注文されなかったものはどんどん削ってきました。だから、今あるメニューは、お客さんが選んだ「残るべくして残った料理」なんです。

ケージー:すごいですね。まさに進化してきたカンボジア料理ですね。

筆者がカンボジアで食べたアモック
筆者がカンボジアで食べたアモック

呉さん:そうですね。例えば、「アモック」というカンボジアの代表的なカレー料理も、元々はナマズや鶏肉を使って、もっとクリーミーで濃厚な味なんですが、日本では食べやすいようにアレンジしています。

一店舗を大切にするこだわりと、これからの展望

新宿に移転後のアンコールワットの内観④
新宿に移転後のアンコールワットの内観④

ケージー:今後、お店をどうしていきたいと考えていますか?

呉さん:特に大きな展開は考えていません。僕にとって大事なのは、一店舗をきちんと続けていくこと。

ケージー:二店舗、三店舗と広げる予定はない感じですか?

呉さん:ないですね。飲食店って、規模を広げるほど味の管理が難しくなります。特にうちみたいに、料理を一から作っているお店だと、目が届く範囲でやるのが一番いいんです。

ケージー:なるほど。だからこそ、この一店舗を大事にしているんですね。

呉さん:はい。ランチは近くのビルの人たちがたくさん来るので、スピーディーに提供するようにしていますが、ディナーはゆっくり楽しんでもらうスタイルです。

ケージー:ディナーはまた違う雰囲気になるんですね。

呉さん:そうですね。回転率を気にせず、お客さんがゆっくり食事とお酒を楽しめる空間にしたい。だから、予約がない日は、できるだけお客さんにのんびり過ごしてもらいたいなと思っています。

最後に、お店に来る方へのメッセージ

アンコールワットの店長・呉さん②
アンコールワットの店長・呉さん②

ケージー:では最後にこれから来店する方や、まだ訪れたことがない方に向けて、一言お願いします。

呉さん:うちは、カンボジア料理を40年以上続けてきたお店です。日本にいながら、少しでもカンボジアの雰囲気や文化を楽しんでもらえたら嬉しいですね。スタッフも全員カンボジア人なので、本場の空気を感じてもらえると思います。

ケージー:料理だけでなく、雰囲気や文化も含めて楽しめるお店なんですね。

呉さん:そうですね。日本のサービスのようなきめ細かさとは違うかもしれませんが、それも含めてカンボジアらしさを味わってもらえればと思います。気軽に来ていただいて、カンボジア料理の魅力を感じてもらえたら嬉しいですね。

ケージー:素敵なお話をお伺いさせていただき、ありがとうございました!

アンコールワットさんでランチを頂いた記事についてはエスニックマガジンの記事でご覧になれます!

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