Instagramアカウント「はが|明日食べたくなるタイ料理情報」でタイ料理の魅力を発信し、フォロワー2.3万人を超える人気インスタグラマーとして注目されるはがさん。
映像・出版・ラジオと“物語を届ける仕事”に長年携わり、現在は古本屋の店主として働きながら、インスタグラムを通して全国のタイ料理店の魅力を発信されています。
「伝えることの面白さ」を軸に、フォロワー2万人を超えた現在も商業性に偏ることなく、楽しみながら継続されているその姿は、多くのファンに影響を与え続けています。
今回はそんなはがさんのこれまでの人生と、SNS発信にかける想いをじっくりと伺いました。
小学6年でバンコクへ——“自由”を教えてくれたタイの暮らし

ケージー: まずは幼少期のお話から伺わせてください。はがさんは、小学生の頃にタイで暮らされていたんですよね?
はがさん: はい。小学6年の途中から中学2年まで、バンコクで暮らしていました。父が日本の政府関連の仕事で、水道技術者の育成センターを現地に立ち上げることになって、その家族としてタイへ行くことになったんです。

ケージー: それってまだ1970年代ですよね。当時のバンコクって、今と全然違ったのでは?
はがさん: そうですね。当時は高層ビルなんて一つもなくて、電車も国鉄が一本あるくらい。今のような地下鉄もなかったし、街の景色はのどかでしたね。住んでいた家はプールやテニスコート付きで、すごく広い庭があったりして、運転手やお手伝いさんがいる生活でした。

ケージー: それはまさに“異世界体験”ですね。日本とのギャップに戸惑うことは?
はがさん: 不思議と戸惑いはなかったです。子どもだったから、そういうものかと自然に受け入れていた感じですね。ただ、二年半過ごして日本に帰ってきたときに、むしろギャップを強く感じました。日本の中学校って、すごくルールが多くて—「髪が長い」とか「制服の着方が」とか、なんでこんなに厳しいんだろうって。
ケージー: タイの自由な空気が肌に合っていたんですね。
はがさん: そうだと思います。日本人学校も校則らしい校則はなかったし、生徒数も少なくて、伸び伸びしてましたから。今でも自分の中にある「おおらかで自由な感覚」は、たぶんこの時に育まれたものなんじゃないかなと思ってます。
映像・出版・ラジオ…“物語を伝える”ことに惹かれて

ケージー: タイから帰国されたあとは、どんな学生時代を過ごされたんですか?
はがさん: 映画が好きで、高校の頃からよく観ていました。大学に進学したんですが、在学中に映画制作の現場に関わるようになって。照明や録音の手伝いをしながら、「やっぱり物語を“伝える”ことって面白いな」と思うようになっていったんです。
ケージー: 本格的にその道に進まれたんですね。
はがさん: はい。大学は結局中退して、フリーランスで映画や映像制作の仕事を始めました。当時はVシネマ全盛で、30分や1時間もののホラー作品をレンタルビデオ向けに作っていたり、企業のプロモーション映像や社員教育用ドラマを制作したりしていました。
ケージー: 社員教育ドラマって、ドラマ仕立てで作るんですか?
はがさん: そうなんです。有名な俳優さんも起用して、「部長の苦労を若手に伝える」みたいなテーマの短編ドラマを大きな予算で撮影する、今では考えられないような案件もありました(笑)

ケージー: なんだかすごくバブルの香りがします(笑)そこから出版やラジオの世界にも?
はがさん: 20代後半にご縁があって、TBSラジオとアミューズが立ち上げたプロダクションに関わることになったんです。そこでラジオ番組の台本を書いたり、そこから派生した書籍を編集したり。いわゆる“放送と出版のハイブリッド”の現場でしたね。
ケージー: 映画、出版、ラジオ……さまざまなメディアを通して、一貫して“表現”や“伝えること”に惹かれてきたのが伝わってきます。
はがさん: そうですね。形式は違っても、人の心を動かすことができる、という点では全部つながっていました。今思えば、その頃に培った視点やスキルが、今のInstagramの発信にもすごく生きているなと感じます。
“偶然の発見”から始まった古本屋ライフ—0→1を作ったネット戦略

ケージー: タイ料理アカウントの前に、はがさんは古本屋を開業されていますよね。
はがさん: はい。本そのものはもともと好きだったんですが、本格的に「仕事」にしたのは30代後半くらいからです。当時、都内にどんどんブックオフが進出してきていたんですよ。で、ブックオフの店内を見てみると……映画関連の古い本が100円で山のように並んでいて。
ケージー: それ、目利きの人ならすぐ「ビジネスチャンスだ」って気づきますね。
はがさん: そうなんです。自分の感覚で「これは1,000〜2,000円は出せる」と思える本が、ザラに100円で手に入る。そこで一気に買い込んで、ホームページに手打ちでリストを作って、販売を始めたんです。Amazonマーケットプレイスもない時代、ちょうどヤフオクが出てきた頃ですね。

ケージー: 自前でオンラインショップを立ち上げたような感じですね。
はがさん: ええ。当時は本当にライバルが少なかったので、「古本 買取」と検索すると、うちの店がYahoo!とGoogleで1〜2位に出てくる状態で。毎日、驚くほど買取の依頼が来ました。
ケージー: それって、今でいうSEO戦略の先駆けですね……!
はがさん: たまたまタイミングが良かっただけなんですけどね(笑)でもそこで「これは本気でやらないと」と思って、古書組合に入って古本の市場に通いながら、自分の知識と感覚を磨いていきました。
ケージー: まさに“ゼロからイチ”を作った経験ですね。
はがさん: そうですね。インターネットがまだまだ“手作り感”のある時代だったからこそ、自分で工夫すれば届くものがあったし、それがすごく面白かったです。
ケージー: タイ料理の発信とはまったく違うようでいて、「好きなことにのめり込んで、誰よりも早く形にする」っていう共通点がありますね。
はがさん: たしかに、やってることの根っこはずっと変わってないかもしれないですね。
気づけば“タイ料理専門”アカウントに—インスタとの再会

ケージー: タイ料理のインスタアカウントとしては、かなり早い時期からスタートされてますよね?
はがさん: インスタを始めたのは2016年で、アカウントを立ち上げた当初は日常の風景とか、猫とか、ご飯とか……一貫性のない投稿内容でした。古本屋の情報を発信しようとも考えていたんですが、うまく活かせなかったんです。
ケージー: そんな中で、タイ料理の投稿だけ反応が良かった?
はがさん: そうなんです。「今日はここでガパオを食べました」っていう投稿だけ、やたらいいねが付いて(笑)「あれ、もしかしてタイ料理って、みんな興味あるのかも?」って気づいたんですね。
ケージー: それで方向転換を?
はがさん: はい。だったらもう、いっそタイ料理専門のアカウントにしてみようと。それまでの投稿を整理して、再スタートしました。そこから「じゃああのお店にも行ってみよう」「この店も気になる」って、自然と巡るようになっていった感じですね。

ケージー: 最初に投稿したタイ料理のお店って覚えてますか?
はがさん: 確か神保町の「ティーヌン 神保町店」だったと思います。古書組合のある古書会館の市場に出入りしてたので、近くにあったあのお店によく行っていました。コロナ禍で閉店してしまったのが残念ですけど……。
ケージー: なるほど、行動範囲に“必然的に”あったタイ料理店が、きっかけになったんですね。
はがさん: そうですね。あと、インスタやっていなかったら、ここまで通ってなかったと思います。やっぱり、発信して、反応があって……その循環がすごく楽しかったですね。
ケージー: ここから、あの強烈な映像表現の世界につながっていくわけですね。
はがさん: まぁ、まだこの時点では“趣味の延長”という感じでしたけどね。でも、気づけばどんどんのめり込んでいました。
「趣味が影響力を持つ」転機—トムヤムジミーさんとの出会い

ケージー: そこから「ただの趣味」が「影響力を持つ活動」に変わっていくきっかけって、何だったんでしょうか?
はがさん: 大きかったのは、トムヤムジミーさんとの出会いですね。あるとき「タイ料理好きが集まる会があるんですけど、来ませんか?」って誘っていただいて。行ってみたら、タイ料理に関わるいろんな人がいたんです。
ケージー: それが刺激になったということなんですね。
はがさん: そうですね。その時、僕のフォロワーはまだ1,300人ぐらいで、自分のことを「ただのタイ料理好き」くらいにしか思ってなかったんですけど、ジミーさんから「こんなにたくさんのお店を回って、投稿も丁寧に書いてる人は初めてだ」と言ってもらえて。ちょっと誇らしかったですね。

ケージー: それをきっかけに、運用スタイルも変わっていった感じですか?
はがさん: はい。それまではフィード投稿が中心だったんですけど、そこから「もっとたくさんの人に届けたい」という気持ちが芽生えて、インスタのノウハウを本気で調べ始めました。YouTubeやブログで情報を漁って、リールの作り方、音楽の選び方、タイトルの付け方まで全部勉強しました。
ケージー: いわゆる“研究モード”ですね!
はがさん: そう(笑)大学時代から映画や出版に携わってきた経験もあって、「どうしたら人の心に残るか」はずっと考えてきたことだったので、その延長線上にインスタがあった感じです。
ケージー: そこからの伸び方はすごかったですよね。僕がはがさんを初めて知ったのも、バズったリールがきっかけでした。
はがさん: ありがとうございます。リールの力って本当にすごいですよね。今では、インスタの“外側”にまで波紋が広がっていくのを実感するようになりました。例えば、他のグルメ系インフルエンサーさんがタイ料理に注目してくれたり。
ケージー: タイ料理が“界隈”を越えて広がっていったのは、はがさんの存在があってこそだと思います。
はがさん: もしそうだったら、すごく嬉しいです。でも、ほんと「好きでやってただけ」なんですよね。それが影響力を持ち始めた時は、自分でも驚きました。
居場所としてのインスタグラム—“楽しさ”が続ける理由

ケージー: はがさんのアカウントって、“情報発信”を超えて、どこか「居場所」のような空気を感じるんです。それは意識されてるんでしょうか?
はがさん: そうですね、「居場所」って言葉はすごくしっくりきます。インスタって、タイ料理を軸にした「もう一つの世界」みたいな感覚なんです。日々の仕事とは違う、自分の思いや好奇心を表現できる場所。
ケージー: それってすごく贅沢な時間の使い方だと思います。でも、お金にならない部分も多いですよね。
はがさん: そうなんですよ(笑)めちゃくちゃ時間かけてるのに、基本は無収入です。それでも続けているのは、やっぱり“楽しい”からなんですよね。自分が好きなものを、自分の感性で切り取って、それを誰かが「いいね」してくれる。シンプルだけど、それが嬉しくて。
ケージー: “好き”のパワーって、本当に強いですよね。
はがさん: ただ、やっぱりときどき思いますよ。「俺、何やってるんだろう……?」って(笑)古本屋の仕事は、時間をかけた分ちゃんとお金になる。でもインスタはそうじゃない。だから、バランスをとるのが難しい。
ケージー: だからこそ、Instagramって続けるのがめちゃめちゃ難しいですもんね..
はがさん: そうですよね。けど、「自分の発信が、誰かの行動や気持ちを動かしてる」って実感があるからですね。投稿を見てお店に行ってくれた人、チェンマイの募金活動に協力してくれた人。自分では気づけない影響が、どこかで生まれてるって思えるのがモチベーションです。
ケージー: 発信って、受け取り手の顔が見えないからこそ、たまに届いた“声”がすごく沁みますよね。
はがさん: そうなんですよね。だから、もし見てる人がいたら、気軽にリアクションしてほしい(笑)その一言が、次の投稿を作る原動力になるので、ガンガンリアクションしていただきたいです!
YouTubeと“次の発信のかたち”

ケージー: ここまで聞いてきて、はがさんが本当に“表現者”なんだなって感じました。今後、さらに挑戦してみたいことってありますか?
はがさん: ありますね。今、一番意識しているのはYouTubeです。今年中に収益化を目指したいと思っていて、少しずつ準備しています。
ケージー: YouTubeって、やっぱりインスタとは全く違う表現媒体ですよね。
はがさん: そうですね。動画の長さや編集の作業量、構成の緻密さも桁違い。でも、自分が伝えたいことをもっと深く届けるには、やっぱりYouTubeが一番いいんじゃないかと思っていて。実はチェンマイの映像もその一環で撮ってきたんです。
ケージー: その話を聞くだけでもワクワクします。しかも、60歳から新しいことに挑戦するって、すごく勇気のいることですよね!

はがさん: でも不思議と、この歳だからこそ、焦らずに挑戦できる部分もあるんですよね。昔は「数字がすべて」だったけど、今は“好きだからやる”を大切にしてます。とはいえ、やっぱり時間をかけている分、少しは収入があると嬉しいですけど(笑)
ケージー: まさに“暮らしの延長にある発信”って感じですね。ビジネスにしようとすると続かなくなることも多いけど、はがさんの発信って、すごく自然体。
はがさん: ありがとうございます。今後もインスタもYouTubeも、“自分のペースで、楽しく続けていく”というのが目標です。なにより、自分自身がタイ料理とタイ文化をより深く好きになっている。それを誰かと共有できることが、一番の喜びですね。
ケージー: 本当に、はがさんの発信は“情報”じゃなくて“物語”として届いています。今後のYouTubeも、楽しみにしています!
はがさん: ありがとうございます。これからも、自分なりの“好き”を発信し続けていきたいと思っています