埼玉県川口市で、地域の多文化共生をテーマにした「エスニックフード祭り」が静かに注目を集めています。
このイベントは、地域に根ざした学生を中心とした有志チームが企画・運営しており、2024年2月に第1回を開催。1万人以上を集客する大盛況の中、来月6月7,8日の開催に向けて準備が進んでいます。
単なる“フードフェス”にとどまらず、地域の多様性を可視化し、食を通じて人と人がつながる場を創りたい—そんな想いから始まった取り組みです。運営メンバーの言葉を通して、この祭りが目指す「社会との新しい向き合い方」とは何かを紐解いていきます。
川口で始まった「多文化共生」への挑戦

ケージー:今日はお時間ありがとうございます!まずは、おふたりがこの活動を始めるまでの経緯を教えてもらえますか?
運営メンバーのAさん:こちらこそありがとうございます。自分はずっと川口で生まれ育ってきたのですが、地元は長らくベッドタウンとして認識されがちな場所でした。実は高校時代、市外の学校に通い始めてからは自分の街に対する興味や愛着がすっかり薄れていたんです。その後、外国へのバックパッカー旅行などを経験する中で、徐々に視点が変わり、自分の街がもつ多文化共生の現実に気づくようになりました。
ケージー:外に出たことで地元を客観的に見られるようになったんですね。
運営メンバーのAさん:その通りです。また、中学時代には学校が荒れていた経験もあり、「同じはずの人と人がなぜ対等に会話を交わすことができないんだろう」という根本的な疑問を抱え続けている節があります。そんな背景から、自分の育った場所に何かできることはないかとずっと考えるようになり、「多文化共生」というテーマに自然と関心が向いていったんです。
ケージー:なるほど。地元だからこその実感もあったんですね。
運営メンバーのAさん:はい。当初はイベントありきではなくて、むしろ川口という場所で「何が必要か」からスタートしました。特に、移民・難民の問題や、地域の摩擦のようなものがニュースで話題になっているのを見て、漠然とした違和感を抱いていたんです。
運営メンバーのBさん:自分は韓国出身で、高校まではずっと韓国にいたんですが、大学進学をきっかけに日本に来ました。国際的な家庭で育ったこともあって、こういうテーマには自然と惹かれるところがありましたね。
ケージー:背景は違えど、同じテーマに集まったんですね。
シンプルな理想から生まれた第1回フードフェスの舞台裏

ケージー:初開催は去年2024年の2月でしたよね。最初から出店者さんやお客さんがあれだけ集まったのは、正直すごいと思いました。
運営メンバーのAさん:ありがとうございます。とはいえ、実は本当に何のツテもないところからのスタートでした。最初は4〜5人の小さなチームで、テレアポや直接訪問を繰り返して。最初は「何言ってんの?」って感じで、ほぼ全滅(笑)
運営メンバーのBさん:企画の実体もまだなかったので、信用してもらえないのは当然だったと思います。でも「川口にこんなにエスニック料理のお店があるんだ!」という発見が、活動のモチベーションにもなりましたね。
ケージー:最終的に何店舗くらい集まったんでしたっけ?
運営メンバーのAさん:18店舗です。トルコ、ネパール、アフリカ……川口って、本当に多国籍な食文化がある街なんだと改めて実感しました。
ケージー:イベント当日もすごく賑わってましたよね。でも運営面では大変なことも多かったのでは?
運営メンバーのAさん:はい。正直言って、あれは「気合」で乗り切った1年でした。自分自身、マネジメント経験もなかったので、スタッフを増やしてもうまくいかないことばかり。なんとかカタチにしたけど、反省点も多かったですね。
運営メンバーのBさん:やっているうちに、「このイベントって本当に地域やお店のためになっているのか?」と、自分たちの立ち位置に悩むこともありました。
ケージー:なるほど。そのモヤモヤが、次につながっていくわけですね!
「ただのフードフェスにはしたくない」——6/7(土),8(日)に開催される第2回川口エスニックフードフェスに向けて

ケージー:第1回を終えたあと、振り返ってどんな課題が見えてきたんですか?
運営メンバーのAさん:やっぱり大きかったのは、「自分たちがやりたかったことと、実際にできたことのギャップ」です。最初は“多文化共生”という大きなテーマを掲げて始めたのに、終わってみれば、ただのにぎやかなフードフェスになってしまっていたなと。
運営メンバーのBさん:そうなんです。来場者も1万人を超えて盛況だったんですが、「本当に地域やお店、社会のためになったのか?」という問いが、ずっと残っていました。
運営メンバーのAさん:派手なだけで中身が伴っていない、そう感じたんですよね。だからこそ、第2回ではそこを見直したいという思いがすごく強かったです。
ケージー:そうだったんですね!
運営メンバーのAさん:来月の6/7(土),8(日)に開催されるフェスでは「MEAL MEETS BAZAAR(ミール・ミーツ・バザール)」という新しいコンセプトを掲げています。「食(Meal)を通して人が出会い(Meets)、多様な文化が混ざり合う空間(Bazaar)をつくる」そんなイメージです。
運営メンバーのBさん:たとえば、子ども向けに異文化体験のカードを配る企画を用意したり、デザインやアートの力を取り入れて、「ただの消費」ではなく参加体験を重視しています。
ケージー:体験型のフェスになっているのは、非常に楽しみです!
運営メンバーのAさん:そうですね!差別や偏見って、多くは「接点がないこと」から始まると思っているんです。知らない人のことはどうしても怖く感じてしまいますし、「つながらないこと」が自然と排外意識につながってしまう。そんなシンプルで直感的な洞察から始めました。都市では日常的に偶発的な出会いが生まれにくいからこそ、隣にいる外国ルーツの方と自然につながれる場を意図的に設計したいと考えたんです。遠ざけるのではなく、まずは一緒に食事を楽しむという小さな接点から、共生に近づけたらと思っています。
まちに投げかける新しい視点ーつながりから共生を編む

ケージー:今回のフェスには、「多文化共生」という大きなテーマがありますよね。でも、それが逆に難しさにつながる部分もあるんじゃないでしょうか?
運営メンバーのAさん:そうですね。特に日本社会においては、多文化共生という話題が「外国の人を受け入れるべきか否か」という二項対立の政治議論になりがちです。でも、私たちが目指しているのはそういった主張をすることではなく、むしろ建設的な対話が活性化する環境づくりなんです。私たちのアプローチは、すでに川口にたくさん住んでいる多様な人々との出会いを意図的に設計すること。そこを担っているのが、この「ミール・ミーツ・バザール」というコンセプトなんです。
運営メンバーのBさん:実際、前回のフェスの前には、色々な問題が発生して。幸いなことに、事なきを得て当日を迎えられたんですが、やっぱり「多文化」や「移民」の話題って、それだけでセンシティブに扱われる現実があります!
運営メンバーのAさん:でも、僕たちがやっているのは、あくまで「隣人を知る」きっかけをデザインすることなんです。ご飯を一緒に食べて、「おいしいね」って笑う。その瞬間には、国籍も宗教も関係ないはずなんですよね。
ケージー:それは確かに“政治”ではないですね。
運営メンバーのBさん:はい。差し出すのは主義主張ではなく、「出会いの場」。それが僕たちの考える“多文化共生”です。派手なスローガンよりも、実際に人がつながる仕掛けを地道に積み重ねることが、まちを変えていく一歩になるんじゃないかなと信じています。
誰もが主役になれるフェスへ—川口から広がる未来
ケージー:では最後に、来月に開催される第2回川口エスニックフードフェスに向けてのメッセージをお願いします!
運営メンバーのAさん:前回から大きく進化しているので、一度来てくださった方には、ぜひもう一度足を運んでいただきたいです!出店してくださるお店も増えていますし、企画の幅も広がっているので、「食べる」だけじゃない、まちと出会うフェスになっていると思います!
運営メンバーのBさん:今まで来たことがない方も、ぜひふらっと来てほしいです。「何かのために行く」じゃなくて、自分の感性で楽しめる空間になっていたら嬉しいなって。出店も、協力も、参加も、すべての立場の人が主役になれるフェスを目指しています
運営メンバーのAさん:僕たちはこれからも川口を拠点に、多文化共生の視点から街に根差し、学び、仕掛けていきます。地域の課題や魅力は、ひとつの団体では解決できないからこそ、いろんな立場の人たちと一緒に創っていく場を広げていきたいですね。
運営メンバーのBさん:街歩きのプロジェクトや、中高生を巻き込んだワークショップなんかも準備しています。川口の可能性を信じているからこそ、多様な人が関われる仕組みをこれからも考えていきたいと思っています。
ケージー:本当に素晴らしいお話をありがとうございました!6/7,8に開催される川口エスニックフード祭りが楽しみです!