かつてタイ料理の名店「マンゴツリー」で長年腕を振るい、東京駅のグランスタなど重要拠点の統括も務めたシェフが、東京・赤羽に自身の店をオープンさせました。 提供するのは、ひとりでも気軽に楽しめる「街中華」のようなスタイルのタイ料理と、海老の旨味が凝縮されたトムヤムラーメン。
なぜ彼は安定したキャリアを離れ、赤羽という地で挑戦することを選んだのか。
そして、こだわりの一杯に込められた想いとは? 今回は、店主の本城さんに、独立までの道のりとこれからの展望についてお話を伺いました。
赤羽での独立—4年の歳月をかけて練り上げた構想

ケージー: 本日はよろしくお願いします。まずは、この赤羽という場所でお店を開くことになった経緯からお伺いしてもよろしいでしょうか。
本城さん: よろしくお願いします。きっかけは、ここの土地の所有者である大家さんが、かつて一緒に働いていた友人だったことなんです。
ケージー: 元々の仕事仲間だった方とのご縁で、この場所が決まったんですね。
本城さん: そうです。3年ほど前、ちょうどコロナ禍の少し後くらいに「ここでやらないか?」と声をかけていただいて。そこから「やりたいですね」と話が進んでいきました。
ケージー: ということは、オープンまでかなり長い期間準備をされていたんですね。
本城さん: 構想としては4年くらい前からですね。2年ほどじっくりとプランを練って、今年ようやくオープンに漕ぎ着けました。
ケージー: 満を持してのオープンですね。先日いらっしゃったパートナーの方も、以前からのご友人なんですか?
本城さん: 彼も「マンゴツリー」時代の同僚です。彼は仕入れなどを担当していて、僕はシェフとして現場に立っていました。
イタリアン志望から一転、バリ料理で受けた衝撃

ケージー: マンゴツリーに入られる前は、どのようなお仕事をされていたんですか?
本城さん: 地元は神奈川県の小田原なんですが、18歳の頃からショットバーやラーメン屋、ピザ屋などで働いていました。
ケージー: 飲食一筋ですね! 最初からエスニック料理を目指していたわけではないんですか?
本城さん: 実は、元々はイタリアンをやりたいと思っていたんです。洋食の基本を覚えたいなと。
ケージー: それがなぜ、エスニックの道へ行こうと決意されたんですか?
本城さん: 地元でインドネシア料理を出しているコアなお店があって、そこで働き始めたのがきっかけです。ナシゴレンなどの料理に触れて、最初はバリ料理にハマりました。
ケージー: 入り口はタイではなく、バリだったんですね。何がそこまで本城さんを惹きつけたんでしょうか。
本城さん: 衝撃を受けたんですよね。それまで自分が目指していたイタリアンとは全く違うフィールドの料理に出会ってしまった、という感覚でした。
ケージー: 味の衝撃だけでなく、現地の文化にも魅力を感じられたそうですね。
本城さん: そうですね。現地の人と話している方が、自分が気を使わずに楽にいられたんです。その「いい意味での適当さ」というか、空気感が好きで惹かれていきました。
「手づかみシーフード」も経験—マンゴツリーでの14年間

ケージー: その後、20代後半でマンゴツリーに入社されたと。最初はどちらの店舗だったんですか?
本城さん: 最初は横浜の店舗でキッチンを担当し、そこで料理長や店長を経験しました。その後、新宿へ異動になったんですが、そこで面白い経験をしまして。
ケージー: どんな経験ですか?
本城さん: 「ダンシングクラブ」という、手づかみでシーフードを食べるお店をやることになったんです。
ケージー: ああ! あのテーブルの上に広げられたシーフードを手で食べる、エンタメ感のあるお店ですね。
本城さん: そうです!そこから台湾での新店舗立ち上げにも関わったりして。
ケージー: すごいキャリアですね。純粋なタイ料理だけでなく、スパイスを使ったシーフード料理の経験も豊富なんですね。
本城さん: その後、マンゴツリー東京(丸ビル)や、東京駅グランスタの「マンゴツリーキッチン」などの統括を任されるようになりました。
ケージー: グランスタといえば、ものすごい来客数がある激戦区ですよね。そこを統括されていたとは驚きです。
本城さん: 東京駅だけでなく、横浜や大宮など各所の店舗をマネジメントしていました。でも、そろそろ自分でやりたいなという気持ちが強くなってきて。
目指したのは「街中華」のような日常使いできるタイ料理



ケージー: 14年間エスニック料理と向き合ってきた中で、ご自身のお店では「トムヤムラーメン」を看板メニューに据えられています。これはどういった意図があるんでしょうか?
本城さん: 基本的にタイ料理はやりたいと思っていたんですが、一般的なタイ料理店って「大皿料理」がメインなんですよね。
ケージー: 確かに。一皿の量が多くて、少人数だと何種類も食べられないことが多いです。
本城さん: そうなると、お酒を飲みながら少しずつつまむ、という楽しみ方が難しい。だから僕は、「小皿でちょろちょろ食べながら飲めるお店」を作りたかったんです。
ケージー: なるほど。そこで「ラーメン」という要素が出てくるわけですね。
本城さん: 僕自身、街中華やラーメン屋で飲むのが大好きなんです。だから、ベースは街中華のような感覚で、地域に根付いたタイ料理屋ができれば楽しいなと。
ケージー: 「街中華のようなタイ料理」、すごくしっくりきます。赤羽という街の雰囲気にもぴったりですよね。
本城さん: フラッと入って、一人で飲んで食べて帰れる。大手チェーンにはない、そういう空気感を作りたかったんです。
海老の頭で出汁をとる「究極のトムヤムラーメン」

ケージー: 看板メニューのトムヤムラーメン、私もいただきましたが、出汁の旨味がギュッと詰まっていて本当に美味しかったです。
本城さん: ありがとうございます。元々「海老ラーメン」が好きで、北海道の「一幻」や新宿の「五ノ神製作所」なんかによく行っていたんです。
ケージー: 名店揃いですね! そこからインスパイアを?

本城さん: 海老ラーメンが好きなら、トムヤムクンと合わせたら完璧じゃないかと思って(笑)
ケージー: 間違いない組み合わせです(笑)スープのこだわりについても教えてください。
本城さん: マンゴツリー時代にトムヤムクンを作る際、車海老の頭を使って出汁をとっていたんです。その手法をラーメンにも応用しています。
ケージー: なるほど! あの濃厚な旨味は、マンゴツリーでの経験が生きているんですね。
本城さん: 酸味と旨味のバランスを調整して、途中で飽きずに最後まで飲み干せるスープを目指しました。
ケージー: 確かに、変なクセがなく、でもしっかりトムヤムクンの良さがある。まさに「毎日食べられる味」だと感じました。
地域に愛される「10坪以内の小さなお店」を増やしたい

ケージー: ラーメン以外のおつまみメニューも個性的ですよね。「トムやっこさん」なんて初めて見ました。
本城さん: 他ではあまり見ないですよね(笑)料理の味をベースにおつまみを作っていて、ラープなんかもお酒が進みますよ。
ケージー: ラープ絶対お酒に合いますね!今後の展望については、どのように描かれていますか?
本城さん: 基本的には、今のスタイルのような「地域密着型」のお店を続けていきたいです。
ケージー: 大規模に展開するというよりは、目の届く範囲で、ということでしょうか。
本城さん: そうですね。ワンオペか、アルバイトと2人で回せるくらいの10坪以内のお店で。そうしないと、お客様との距離感が遠くなってしまうので。
ケージー: 「いらっしゃいませ」「どうぞ」というやり取りができる距離感を大切にされているんですね。
本城さん: そういう小さなお店を、2店舗、3店舗と増やしていけたらいいなと思っています。
ケージー: 赤羽から始まる新しいタイ料理の形、これからも楽しみにしています。本日はありがとうございました!
本城さん: ありがとうございました!
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実際に訪れた店舗の様子や、こだわりのメニューについては、別記事で詳しく紹介しているので、ぜひそちらもご覧ください!

